近年は、ネット求人を使って採用活動する企業が増えました。それに伴って、ネット求人を扱う業者が増加しています。
中には、安いコストで求人を掲載してくれる業者もいるため、企業にとっては心強い味方となっているでしょう。
その一方で、悪質な業者とのトラブルも目立つようになってきました。
では、ネット求人をめぐるトラブルにはどのようなものがあるのでしょうか?
また、そのような悪質な業者に騙されないために、企業がすべき対策とは何なのでしょうか?
今回は、ネット求人で実際に起きているトラブルについて解説します。
どのようなネット求人はトラブルに発展しやすいのか、トラブルに巻き込まれないための対策、トラブルに発展した際の対処法もお伝えするので、ぜひ参考にしてみてください。
ネット求人でトラブル多発?事例を紹介!
近年、ネット求人を使った悪徳商法が横行しています。実際、多くの企業がネット求人の利用後にトラブルに発展しています。
では、実際にどのようなトラブルが起きているのでしょうか、見ていきましょう。
事例1.無料求人掲載のはずが高額請求
滋賀県内でレストランを経営する40代の男性のもとに1本の電話がありました。その内容は「無料で求人を載せませんか?」というものです。
対応も丁寧だったため、資料を送ってもらいました。届いた申込書には、「初回無料キャンペーン」の文字が記載されています。
当然、男性は何度も「本当に料金はかからないのか?」と尋ねて、契約内容にもしっかりと目を通したそうです。
そして、本当に無料で求人掲載できると確認ができたので申し込みしました。
すると、約3週間後に32万円を超える請求書が届いたのです。慌てて業者に問い合わせると、「契約時に説明した。申込書にも書いてある」と主張しました。
改めて男性が契約書を見てみると、非常に小さな文章で「解約申し入れがない限り、自動的に有料掲載へと移行」と記載されていたそうです。
参考:京都新聞「無料掲載のはずが…ネット求人の広告サイト、トラブル多発」
事例2.自動更新で高額請求
新潟県に本社を置くドラッグストアチェーンの採用担当者の男性に1本の電話が入ります。その内容は「無料で二十日間、サイトに求人情報を載せませんか。案内をメールで送りたい」というものでした。
人材不足に悩んでいた男性は「願ってもないチャンス」と考えて、すぐにメールアドレスを伝えたそうです。
すると、男性のメールアドレス宛に確認書と申込書が届き、すぐに申し込みをします。
そして、無料で掲載できるとしていた20日間を過ぎて間もなく、掲載料金48万6,000円の請求書が男性のもとに届きました。
すぐに広告主に抗議すると「解約の申し出がないので更新した」と主張していたそうです。確かに、男性が今一度確認書に目を通すと、目立たない場所に「契約終了の四日以上前に申し出がない限り、期間を更新する」と記載されていました。
男性は約束と異なるとして支払いを拒否しています。
参考:東京新聞「ネット求人 「無料」の誘惑 広告掲載後に高額請求 全国の中小でトラブル」
ネット求人で多いトラブルは無料掲載からの自動更新
2つの事例を見てみると、どちらも最初は「無料でネット求人を掲載できる」と言われて、その後は何の連絡もなく自動更新され多額の請求をされています。
全国で発生しているネット求人におけるトラブルの多くが同じ内容です。
最初は無料で掲載できると謳い、その後に自動更新して多額の請求をするという手口となっています。また、契約書などには小さな文字や分かりにくい場所に、自動更新に関する内容を記載しています。
どんなに小さい文字や分かりにくい場所であっても、記載している事実があるために解決が難しくなっているのです。
どんなネット求人がトラブルになりやすいのか?
ここでは、どのようなネット求人がトラブルになりやすいのか、その特徴を紹介します。
「無料」という言葉を強調している
1つ目の特徴は「無料」という言葉を強調しているというものです。
事例を見てみても、必ずと言ってよいほど最初に「無料」という言葉を使っています。
例えば、FAXで確認書などを送ってもらう場合、A4用紙に「無料」という文字が大きく太字で書かれていて、その他の大切な契約内容などは小さなもので読みづらいのが特徴です。
電話での勧誘であっても、やはり何度も「無料」という単語を連発して料金が一切かからないように思わせます。
また、このような悪質なネット求人の場合、その多くが飛び込み営業です。もし、あなたのもとに飛び込みで無料ネット求人の勧誘が来た場合は、悪質な業者の可能性を疑うようにしてください。
誤解を招くあいまいな説明をする
2つ目の特徴は誤解を招くあいまいな説明をするというものです。
無料と言われても、すぐに納得するという人は少なく、大抵の方は「本当に無料ですか?」と質問します。それに対して、悪質な業者は「費用はかかりません」などとあいまいな表現しかしないのです。
そして、自動更新や契約継続時の料金などの説明は口頭でせず、申込書などに小さく記載しているだけという手口が多くなっています。
本来であれば、契約更新などの説明は書類を一緒に見ながら、口頭でも説明する必要があるはずです。それをしない業者は、無料ネット求人広告の詐欺を行っている可能性が高いと言えるでしょう。
解約依頼に対応しない
3つ目の特徴は解約依頼に対応しないというものです。
無料のネット求人の場合、その多くが自動で契約更新されてしまいます。そして、その事実に気が付いて、広告主に連絡しても、なかなか解約依頼に対応してくれません。
なぜなら、大抵の方は自動更新されるギリギリに解約依頼の連絡をするからです。
広告業者からしていれば、あと数日待てば自動で契約更新となり料金を請求できます。
このような理由から、解約依頼をしても手続きを進めようとしません。中には、キャンセル依頼のための電話やFAXが通じないようにする業者もいるほどです。
無断で契約更新される
4つ目の特徴は無断で契約更新されるというものです。
ネット求人トラブルの事例でも解説した通り、どの悪徳業者も無断で契約更新しています。
また、最初に渡した契約書や申込書にも分かりにくい文章で、「期間満了したら自動的に有料契約で更新する」などの内容を記載しているだけです。
中には、営業を装って契約に関する内容のダイレクトメールを送り、わざと営業ダイレクトメールだと勘違いさせて大切な通知を捨てさせる手口もあります。
最も厄介な点は、分かりにくいとは言っても契約書などで「自動更新」に関する記述があることです。悪徳業者は、「あなたが契約書を確認しなかっただけ」と主張できます。
この点が、トラブル解決を困難にしている要因です。
求人広告の効果が全くない
5つ目の特徴は求人広告の効果が全くないというものです。
完全なネット求人詐欺の場合、求人サイト自体も詐欺集団が作成したものなので、当然広告費用などを投下してはおらずアクセスも一切集まりません。
つまり、求人広告としての効果は全くないというわけです。
もちろん、完全に詐欺ではなく悪質な運用をしているだけの広告会社の場合、多少は求人効果が出るケースもあるでしょう。
しかし、基本的にまっとうな運営をしていない業者の場合、求人広告の効果はありません。効果がないのに多額の請求をされた場合は、悪質業者を疑った方が良いでしょう。
ネット求人でトラブルに巻き込まれないための対策3つ
続いては、ネット求人でトラブルに巻き込まれないための対策について解説します。
無料を強調する業者を疑う
1つ目の対策は無料を強調する業者を疑うという方法です。
昔からある言葉に「タダほど高いものはない」というものがあります。これは、「タダで何かをもらうと、代わりに物事を頼まれたり、お礼に費用がかかったりして逆に高くつく」という意味です。
どんな仕事も対価があって成立するものであって、決してボランティアではありません。もし本当に無料で求人掲載しているだけなら、どの企業はどのように利益を上げているのでしょうか?
どんなサービスでも全くリスクやデメリットなしに受けられるものはないので、無料を強調する業者がいた場合には疑うようにしてください。
インターネットで業者名を調べる
2つ目の対策はインターネットで業者名を調べるという方法です。
最近は、悪徳業者などの実名を掲載したサイトが数多く登場しています。そのため、誰でも簡単に悪徳業者を調べられるようになりました。
特にインターネットで「求人会社名+詐欺」などのキーワードで調べてヒットする場合は、悪徳業者の可能性が高いと言えるでしょう。
疑わしい勧誘があった場合には、その場で返事するのではなく、必ずインターネットで業者名を調べてからにしてください。
無料にできる理由を考える
3つ目の対策は無料にできる理由を考えるという方法です。
1つ目の対策でもお伝えした通り、完全に無料でサービスを提供していては会社の経営が成り立ちません。つまり、どこかで利益を得る場所があるはずです。
もし、本当に永久に無料で求人を掲載していたとするなら、その企業はどこから利益を得ているのでしょうか?
この点について深く考えてみると、詐欺の可能性に行きつくでしょう。また、本当に求人広告の効果があるなら有料でもやっているはずです。
無料と言われた場合は、まず「なぜ無料なのか?」という点について思考を巡らせてみてください。
ネット求人でトラブルに発展した際の対処法5つ
最後は、ネット求人でトラブルに発展した際の対処法について解説します。
業者の請求に応じない
1つ目の対処法は業者の請求に応じないことです。
仮に詐欺行為があったとしても、支払いに応じてしまえばお金を取り戻すために、被害者側から訴訟しなければなりません。
また、警察に相談しようと考えても、ビジネスにおける取引の紛争は「民事不介入」と考えられているため、警察は大事にはしないのです。
そのため、悪徳業者に引っかかった時には、まず請求に応じないようにしてください。
契約が成立していないと主張する
2つ目の対処法は契約が成立していないと主張することです。
悪徳業者に対してクレームを付けても、おそらく広告主は「書面に記載してある」と主張するでしょう。しかし、その場合の書面というのは非常に分かりにくく記載されているもののはずです。
このような非常識的で不公平な手段による契約なら、有効に契約成立しているとは考えられないため、契約不成立を主張できます。
詐欺を理由に契約解除を求める
3つ目の対処法は詐欺を理由に契約解除を求めることです。
民法96条に「詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。」と記載があります(*)。
つまり、詐欺行為だと証明できれば契約を無効化できるのです。
この民法のルールを武器に契約解除を求めてみてください。
*引用元:神戸合同法律事務所「【新民法条文】詐欺又は強迫(96条)」
錯誤を理由に契約解除を求める
4つ目の対処法は錯誤を理由に契約解除を求めることです。
民法95条に「意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。」と記載があります(*)。
つまり、契約時に被害者の誤解を招くような不適切な説明や表現があった場合、契約を無効化できるのです。
この民法のルールを武器に契約解除を求めてみてください。
*引用元:神戸合同法律事務所「【新民法条文】錯誤(95条)」
弁護士に相談する
5つ目の対処法は弁護士に相談することです。
相手がプロの詐欺集団だった場合、あらゆる手段を使ってお金をだまし取ろうとしてきます。当然、法律などに詳しくない人が抵抗しても、解決できない可能性が高いでしょう。
その場合は、法律のプロである弁護士の方に相談してください。仮に費用がかかったとしても、悪徳業者に屈するよりは良いのではないでしょうか。
このように、ネット求人に関するとトラブルは非常に多く発生しています。大切なのは、このようなトラブルに巻き込まれないように対策を講じることです。
そして、万が一巻き込まれ場合には、業者に請求には応じず、毅然とした態度で対応しましょう。弁護士に相談するのが最善の解決策なので、自分だけで抱え込まず弁護士に相談してみてください。