始業前の掃除は労働に含む。勤務時間外の業務として残業申請も可能毎日通い働く職場では、朝の始業前に掃除をするという会社が少なくありません。

自分が使うデスクや周囲が整理整頓されているということは、仕事へのモチベーションにも繋がりますし、自分自身の気持ちにも影響してきます。

しかし、毎日行う掃除時間は労働に含まれるのでしょうか。

時間は労働時間の前であることや、社員全員が掃除をしているとなれば、時間外労働の対象になるとも考えられます。

始業前の掃除が時間外労働とみなされるのか、みなされる場合どうやったら申請できるのか詳しく見ていきましょう。

始業時間の前に掃除する会社は多いがこれってサービス残業のようなもの?労働として認められるケースをチェック

始業時間の前に掃除する会社は多いがこれってサービス残業のようなもの?労働として認められるケースをチェック社内で始業前に掃除をすることは、日本の企業ではごく当たり前のように感じられドラマなどでも良く観る光景です。

職場によっては創業当時からのしきたりとして始業前の掃除を行い、全員で取り組むか当番制で一部の社員が掃除をするほか、会社によっては社員が自発的な活動として掃除をしているケースがあります。

会社が清掃業者を使っていない場合は社員の誰かが掃除をしなければなりませんが、始業前の掃除の時間はサービス残業ではなく、労働に含まれる時間と判断されることがほとんどです。

どのような条件で労働と認められるのか、始めに労働として認められるケースをチェックしていきます。

始業前の掃除が労働として認められるケースをチェック

始業前の掃除の時間は、会社から明確に始業前に掃除をするよう指示があった場合、もしくは業務命令があった場合に時間外労働になります。

会社として明確に掃除をしなさい! と言っているのだから時間外労働になるのは当然で、例え1日10分の掃除だとしても賃金が支払われます。

また、会社によっては特に会社側で明確な指示や業務命令は出していなくても、会社の慣習として掃除をしている場合があります。

特に誰も何も言っていなくても、朝には掃除をしなければならない雰囲気が漂っている「暗黙の指示」が出ている状態でも、会社の慣習と共に時間外労働とみなされる可能性があります。

労働に含まれるかどうかの見極めポイントとして従業員の掃除への参加の仕方が問題視されますが、一般的には自由参加の場合は労働に含まれず、強制参加の場合は労働に含まれるとしています。

ただ、暗黙の指示のように会社側では指示や業務命令を出していなくても、社内の雰囲気などによって労働に含まれるケースもあるため、状況の判断が重要になる例が多いです。

そもそも時間外労働ってどんな意味なの?

時間外労働は一般的に残業と呼ばれている労働時間を指すことが多いですが、本来は法定労働時間を超えて働くことを言います。

そのため会社に居残りをして夜遅くまで残業することが時間外労働というのではなく、始業前・休日や休憩時間に働くことも時間外労働となるのです。

労働基準法では1日8時間、1週間に40時間までを労働時間として定めており、これを超えた時間を時間外労働といいます。

時間外労働は1ヶ月あたり最大45時間まで、年間360時間までと定められ、会社が36協定の締結と届け出をしなければ、従業員に時間外労働をさせることはできません。

また、時間外労働には割増賃金を支払うこととされているため、多く働く分多い賃金をもらう仕組みになっています。

参考:時間外労働・休日労働・深夜労働 | 大阪労働局時間外労働の上限規制 わかりやすい解説(最終確認2020/07/27)

就業前の掃除に関わらず休憩時間や休日の活動は時間外労働になる可能性大

就業前の掃除に関わらず休憩時間や休日の活動は時間外労働になる可能性大就業前の掃除をピックアップして労働時間になるかどうかをチェックしてきましたが、実際には就業前の掃除の時間以外にも時間外労働になる例がたくさんあります。

具体的には、次のようなものがあります。

<労働時間に該当するか問題になる時間>

  • 始業前のラジオ対応
  • 就業時間外の社員教育
  • 就業時間外の勉強会
  • 休憩時間に行われるミーティング
  • 終業後のミーティング
  • 土日の研修や食事会
  • 特殊健康診断(特定の有害業務に従事する方)
  • 作業の準備や後片付けにかかる時間
  • 更衣室で着替える時間

いずれの場合も自由参加か強制参加で大きく分かれますが、作業の準備や後片付けと更衣室で着替える時間も会社から指示や業務命令があれば労働時間として含まれます。

そのため、準備や後片付けが必要な職種では就業時間のはじめと終わりの何分間かが割り当てられ、制服に着替えて働く会社では更衣室で着替える前と着替えた後にタイムカードを押すところがほとんどです。

気を付けたいのは土日に行われる研修や食事会で、これらは親睦会などの名目で行われることもあり時間外労働になるのか判断に迷うときがあります。

その場合は強制参加なのか自由参加なのかを確認し、強制参加の場合は拘束された時間をメモなど記録しておくことをおすすめします。

ほかの項目でも社外で行われる際には大まかでも活動した時間の記録を付けておくようにしましょう。

時間外労働の賃金は請求できる? 活動時間を記録しておけば会社に請求も可能

時間外労働の賃金は請求できる? 活動時間を記録しておけば会社に請求も可能毎日会社に出社するたびに始業前に掃除している場合、わずか10分の時間だとしても労働に含まれるならしっかりもらいたいと思う方も多いことでしょう。

1日10分でも1ヶ月なら200分、約3時間ちょっと分の割増賃金をもらう計算です。

これをもとに1年分を計算すれば年間40時間分にもなり、割増賃金1時間あたり2,000円だとすれば80,000円もの金額になります。

割増賃金が業界・業種によって差がある場合で考えても、年間数万円から100,000円以上になる可能性があるのです。

さまざまな業界・業種の1ヶ月あたりの残業代を見ると、1ヶ月で予想以上の金額をもらっていることがわかります。

もし、毎月の給与に掃除の分の割増賃金が含まれていないなら、会社に請求しなければだいぶ損をすることになるため、会社に未払いの時間外労働の賃金を請求する方法をチェックしていきましょう。

令和2年4月分結果速報 月間現金給与額 所定外給与(残業代の平均)と所定外労働時間

業種

所定外給与(残業代)

所定外労働時間(残業時間)

鉱業・採石業等

29,700円

15.5h

建設業

25,628円

13.3h

製造業

26,578円

12.0h

電気・ガス業

54,855円

14.6h

情報通信業

32,153円

15.0h

運輸業・郵便業

42,358円

21.7h

卸売業・小売業

11,965円

7.0h

金融業・保険業

29,909円

13.6h

不動産・物品賃貸業

16,924円

9.2h

学術研究等

26,088円

12.7h

飲食サービス業等

4,113円

3.1h

生活関連サービス業

5,743円

3.8h

教育・学習支援業

6,218円

6.8h

医療・福祉

13,154円

4.6h

複合サービス事業

18,316円

7.2h

その他のサービス業

15,719円

8.8h

参考:毎月勤労統計調査 令和2年4月分結果速報 月間現金給与額 第1表月間現金給与額 第2表月間実労働時間及び出勤日数 (最終確認2020/07/27)

未払いの時間外労働の賃金を請求するには記録が重要

今現在、始業前の掃除を始めさまざまな時間外労働の賃金をもらっていない方は、会社に請求することができます。

正式に請求するには、未払い分の時間外労働の時間を記録する必要があり、1日あたりわずか10分だったとしても時間外労働に該当するならしっかりと記録を付けておきましょう。

日付と時間がわかるように記録を付けておくことで、どれほど未払いなのかも把握することができます。

また、休日の強制参加の研修や勉強会なども同様で、いつどれだけの時間を拘束されたかを記録しておいてください。

未払い賃金の請求は2年で消滅時効になる! 会社に請求するときは内容証明を特定記録で郵送するのがおすすめ

未払い賃金を請求するときは、2年の消滅時効がある点に注意が必要です。

何年分もの記録を付けていたとしても、2年が過ぎてしまうと請求できなくなってしまうほか、最大で2年分までしか請求できないことを覚えておきましょう。

実際に未払い賃金の請求を行う際は、請求に対して会社が対応しないケースも想定できるので、必ず内容証明を作成して特定記録で郵送するようにしてください。

内容証明は、どんな内容の文書が誰から誰に送ったかを、差出人が作成した謄本により日本郵便が証明する制度で、1枚なら440円、2枚目以降は1枚あたり260円増しで利用することができます。

送付した会社が対応しないときや法的手段を取るときにも、未払い賃金をいつどこから送ったかを証明するのに役立ちます。

特定記録というのは、日本郵便が郵便物を引き受けたことを記録するサービスで、郵便物を差し出した記録を残したいときにおすすめです。

こうしたサービスを利用すればどんなに会社側がしらを切ったとしてもしっかりと請求したことを証明することができます。

参考:内容証明 – 日本郵便特定記録 – 日本郵便(最終確認2020/07/27)

実際に未払い賃金を請求するなら会社を辞めてからの方がベター

実際に未払い賃金を請求する際は、会社に勤めたまま請求するのではなく退職するときか退職してから改めて請求する方がベターです。

大抵の場合、本来支払うべき賃金を未払いにするような会社は請求を受けた時点で請求者ともめることがほとんどで、素直に応じるようなことは稀です。

もしも、在職中に未払い賃金を請求してもめた場合、そのままその会社に勤め続けることはなかなか厳しくなるため、できれば退職するときか退職してから改めて請求する方が無難だといえます。

また、仮に退職と同時に未払い賃金を請求を行い、請求した日から半年程度経過してもまだ未払いのままなら訴訟を起こすことも検討してみると良いでしょう。

労働時間外の掃除や研修は面接時に細かく質問することで未払い賃金の発生を予防できる

労働時間外の掃除や研修は面接時に細かく質問することで未払い賃金の発生を予防できる1日わずか10分でも未払い賃金の対象になる時間がある場合、そういう会社で長く働こうとはなかなか思えないものです。

次に転職する際には、労働時間はもちろん時間外労働の賃金もしっかり支払ってもらえる会社に就職したいことでしょう。

賃金をしっかり支払う会社に転職するためには、自分なりに情報収集をすることはもちろん、面接のときに細かく質問することも有効です。

例えば、社員の出勤時間を「みなさん何時から出勤しますか? 」といった風に聞いたり、「終業後や休みの日に研修などがありますか? 」と聞いたりすることがおすすめです。

社員の出勤時間を聞くことで、始業時間よりどれくらい早く出勤してきているかを知ることができます。

8時から始業のところ、7時40分くらいにはほとんどの社員が出勤しているとなれば、始業前に掃除をしている可能性があります。

終業後や休日に研修などがあるという返答をもらった場合も、その会社では強制的な時間外労働がある可能性が高いでしょう。

面接のときにこうした質問を上手く利用すれば、強制的な時間外労働の有無を把握することができます。

まとめ

まとめ始業時間の前にオフィスや事務所を掃除する会社は非常に多くあり、日本国内ではさほど珍しいことではありません。

しかし、そのわずかな時間でも会社側からの指示や業務命令なら、時間外労働として労働時間に含まれるものです。

毎日掃除をしている方は、時間外労働として給与に反映されているかを確認し、反映されていない場合はタイミングを見て指摘してみると良いでしょう。

ただ、未払い賃金として認められなかった場合は、その会社に居辛くなってしまうので、できれば退職するときや退職後に改めて未払い賃金を請求することをおすすめします。