画家や陶芸家、写真家など芸術の分野に興味がある方の多くは美大に通います。そして、美大を卒業した後は当然、学校で学んだ知識やスキルを活かして就職先で働きます。
しかし、あなたは美大の就職率が50%未満だという事実をご存じでしょうか?(*)
確かに、芸術分野の仕事となると、なかなか成功するのが難しいといった印象あるでしょう。とはいっても、就職率が50%未満というのは美大卒の方にとっては厳しいと言わざるを得ません。
そこで今回は、美大の就職率が50%未満の理由について解説します。また、美大の就職先として注目の業界や就職先の選び方などもお伝えするので、ぜひ参考にしてみてください。
美大卒の就職先について
「美大の就職率が低いなら、そもそも美術が学べる学校自体少ないのでは?」と疑問に感じる方もいるでしょう。
しかし美術が学べる学校は、短大も含めると約150のコースや学科があるのです(*)。
これだけの学校がありながら、就職率が低いというのはどうしてなのでしょうか。まずは、美大の就職先として人気の業界を見てみましょう。
- デザイン
- アパレル業界
- 放送メディア
- ネットコンテンツ業界
- 広告業界
- 印刷・出版業界
- 教員・公務員・財団等
- ホテル業界
- 建設業界(リフォーム・リノベーション含む)
- 食品・菓子
- 化粧品
- ゲーム
- 絵画関係
このように、幅広い業界で需要があると分かります。中には、一見すると美大を無関係に思えるホテル業界や食品、化粧品なども含まれているのです。
一般的に「美大=絵画や被服」といった印象が強いですが、実際はあらゆるジャンルで芸術に関する知識や経験が活かされています。
例えば、食品や化粧品などは商品のパッケージに美術のスキルを駆使したデザインが施されます。ホテル業界も見た目の印象が大切になってくるため、美大で学んだ感性や技術は役立つのです。
*参考:スタディサプリ「美術を学べる大学・短期大学(短大)の一覧」
美大卒の就職率は50%に満たない
前の項目では、美大の就職先としてあらゆるジャンルがあると分かりました。それにもかかわらず、なぜ美大生の就職率が50%未満と低くなっているのでしょうか。
「芸術系大学出身者と労働」によると、美大卒の方のうち就職者は40%前半で、残りの50%程度の方は就職していないとされています(*)。
では、なぜ多くの美大生が就職しないのでしょうか。
美大生の50%以上が就職しない理由
美大生の多くが就職しない理由として以下の2つに分けられます。
- 作家志向
- フリーランスでの活動希望
やはり美術・芸術と言えば、会社に所属せず自身でアトリエを持って活動する芸術家といったイメージが強いでしょう。そのため、美大卒の方の多くもアーティストとして活動したいという思いが強く、結果として就職しないという選択肢を選ぶわけです。
そして、美術・芸術だけで生計を立てるのが難しい場合は、アルバイトや派遣社員といった非正規雇用として働くといった形になります。
美大生の多くは就職できないのではなく自らしない選択を選ぶ
美大の就職率が50%未満と低いのは、何も就職先がなかなか決まらないというわけではありません。前の項目で解説した通り、美大生の多くはアーティストとしての活動を希望しています。
そのため、就職するのではなく、アトリエを持ったうえで作品を販売したり、個展を開いたりして収入を得たいと考えているのです。
このような理由から、美大生の就職率が低くなっています。決して、就職を希望しても50%の方しか就職できないわけではないので、美大生の方は安心して良いでしょう。
美大卒の就職先で注目されている業界
美大生も希望すれば普通に就職ができると分かったところで、続いてはどのような就職先が注目されているのか確認していきましょう。
注目の業界1.広告代理店や専門広告会社
美大生が注目する就職先1つ目は広告代理店や専門広告会社です。
そもそも広告業界は、デザインなどが重要となってくるため、美術や芸術分野の知識を欲している会社は多くあります。
具体的には、インターネット広告専門の会社、新聞広告専門の会社、野外広告専門の会社など特定の媒体に特化した広告会社です。
これらの会社なら、美大で培った感性や技術が活かせるので、人気の就職先となっています。
注目の業界2.デザイン事務所やメーカーのインハウスデザイナー
美大生が注目する就職先2つ目はデザイン事務所やメーカーのインハウスデザイナーです。
デザイナーとしてデザイン事務に就職するか、もしくは大手メーカーに属する企業の商品や広告のデザインを担うインハウスデザイナーとして就職する形になります。
デザイナーとして就職でき、美大で学んだスキルをフルに活かせるため非常に人気の就職先です。
注目の業界3.ハウスメーカーやインテリア会社
美大生が注目する就職先3つ目はハウスメーカーやインテリア会社です。
こちらは、美大生の中でも建築学科を専攻している学生が選ぶ就職先になります。
建築のデザインを決める意匠設計を目指す人やリノベーションに特化した会社を選ぶ人もいます。また、インテリアに興味があるなら、家具メーカーや工房などでデザインを担当するのもおすすめです。
注目の業界4.ゲーム業界
美大生が注目する就職先4つ目はゲーム業界です。
CGを駆使したグラフィックデザイナーとして就職するならピッタリの業界になります。キャラクターのデザインや背景のビジュアル面の制作に携われます。
ゲームが好きな方なら、楽しみながら仕事が進められるので、おすすめの業界です。
注目の業界5.演劇・テレビ・放送・舞台関係
美大生が注目する就職先5つ目は演劇・テレビ・放送・舞台関係です。
美術は、映像、放送、演劇などに欠かせない分野なので、美大生が多く活躍する業界の一つとなっています。実際の仕事では、小道具から意匠、大道具まですべての準備を行います。
テレビや映画の制作に携わりたい方にはピッタリの業界でしょう。
注目の業界6.写真業界
美大生が注目する就職先6つ目は写真業界です。
写真と言えば、紙媒体はもちろんWEBやカタログ、ブライダル、不祝儀などあらゆる場面で使われます。そのため、写真に関するスキルが活かせる業界は多いのが特徴です。
また、レストランのメニュー表に掲載する写真を撮影したり、料理本などで使ったりするケースもあるため、飲食業界でも活躍の場所があります。
注目の業界7.アパレル業界
美大生が注目する就職先7つ目はアパレル業界です。
デザイナーと言えば真っ先に洋服のデザインが思い浮かぶのではないでしょうか。もちろん、洋服のデザインは美大で学んだスキルが活かせる定番の場所です。
そして、近年ではデザインのみならず機能性にもこだわった被服が求められるようになっているため、その点も踏まえて洋服の制作に携われます。
あなた自身で「こんな洋服があったら良いのに」と思うのであれば、アパレル業界への就職を検討してみると良いでしょう。
美大生が就職先でする仕事内容
続いては、美大生の就職先でどのような仕事をするのか解説します。
アパレル系
アパレル系では、ファッションやコスメ、雑貨といったモノづくりをします。デザイナーやクリエイターとして仕事をするため、商品の図案や設計を担ったり、商品を形にするクリエイトに携わったりするのです。
メディア系
メディア系と一言で言っても、出版社・放送業界・新聞社・インターネット・ゲーム業界など幅広いジャンルがあります。
仕事内容としては、WEB・UI・UXデザインや販売するゲームのグラフィックデザインなどが挙げられます。他にも、WEBサイトのバナーやロゴを作成する仕事なども担当するでしょう。
建築・インテリア
建築やインテリア業界は、多くの美大生の就職先として選ぶ人気の職場です。大手企業はもちろん、中小企業からベンチャー企業まで幅広くあるため、職場が選びやすいのも特徴となっています。
そんな建築・インテリア業界では、お客様が希望するレイアウトや内装デザイン、空間設計などを担当します。そのため、スキルとしてはCADが必要です。専門のソフトウェアの扱いができると就職に有利となるでしょう。
学芸員・教員
地方ではデザイン系の会社が少ないため、学芸員や教員への就職を希望する美大生が多くいます。
就職先は博物館や小学校・中学校・高校・大学・自治体などがあります。
主な仕事は、施設内に保管された資料などの分野研究をはじめ、資料の分類や整理・保管・展示なども担当するのです。
教員になれば、美術の先生として学生に教えることになります。
デザイン系(Web中心)の求人市場は拡大しているが、ファイン系(油絵や日本画・彫刻など)は苦戦傾向
美大生の就職先として、WEB関連を中心としてデザイン系は拡大し続けています。しかし、昔からある油絵や日本画、彫刻といった定番の職業は苦戦していると言わざるを得ません。
実際、美大に入学する際も油絵や日本画、彫刻といった学部の倍率は高くなく、これらの分野を希望する学生自体が減少傾向にあります。
では、油絵、日本画、彫刻といった学部に入学しても就職先は全くないのでしょうか。
もちろん、決して就職先がないわけではありません。
独創的なデザインが求められるジュエリー系やモダン建築などの業界なら、これらの学部でも重宝されるでしょう。
ただし、やはりCGのグラフィックデザイナーや洋服のデザイナーほど就職は簡単ではありません。その事実を理解したうえで入学・就職を決める必要があるでしょう。
美大の就職先はバラエティ・ジャンルともに豊富!希望する業界や相性の良いジャンル選びが大切!
美大生の就職先はバラエティ豊かでジャンルも非常に豊富です。あなたが希望する業界や学んだ学部との相性から就職先の業界を選ぶと良いでしょう。
実際に美大生の就職先は、目的を明確にすれば他の大学に比べて幅が広く、ニーズも高い傾向にあります。
近年では全ての職場で、これまでにない斬新なデザインや独創的な発想が求められる傾向にあるため、発想力の高い美大生は重宝されやすいのです。
しかし、先行学科や学部によっては就職が厳しい可能性があるという事実も理解しておく必要があるでしょう。
もし、どうしても就職先が見つからないのであれば、個人事業主として開業するという選択もおすすめです。
どのような道を選ぶに際しても、大切なのは自己分析と企業研究なので、自分の学んだスキルがどのような仕事に活かせるのか今一度考えてみてください。