証券会社の年収はそもそも高いというイメージがありますが、特に外資系の証券会社の年収は高いと思っている方が多いでしょう。それでは実際どうなのか、国内証券会社と外資系証券会社とで年収の違いを紹介していきます。
国内と外資系では証券会社の仕事が異なる?
国内証券会社の仕事は、基本は個人・法人の営業を行う営業職、企業分析や為替分析を行うアナリスト職、新規上場やM&Aなどを行う投資銀行部門、会社の資金を使って運用を行うディーラー部門があります。
入社後まず営業を経験してその後適性を見て、営業職、アナリスト職、投資銀行部門等に振り分けられる場合と最初から営業を経験せずにそれぞれの部門に配属される会社があります。外資系証券会社もほぼ同様で、営業職、アナリスト職、投資銀行部門、ディーラー職があります。
国内証券会社の特徴は多様な顧客層です。国内証券会社は大手から中堅までありその会社により異なりますが、個人から大企業まで広く扱っています。また、離職率が高いこともありますが大量採用を行っており、様々な顧客層の口座を持ちます。
支店網が各地に展開されているため、都心だけでなく地方転勤もあり得ます。また、最初に営業を経験してから配属される証券会社では、適正により自分が希望している職種に就けない可能性もあります。
さらに、その重責から働き方もハードワークとなります。国内証券会社においてもリスク商品や変動制のある商品を扱っていることから他の職業よりも精神的負担はあります。
しかし、労働環境としては公共機関に近く遅くとも20時までには帰ることができるし、定時退社も週1~2日で設定されています。休暇も年に2回平日1週間の土日含む9日間とることができ、海外旅行に年2回行くことも可能です。
では、外資系証券会社ではどうでしょうか?
日本にある外資系証券会社では、支店網が都心部または東京のみとなっていることが多いため、地方への転勤はなく都心部中心で働くことになります。支店網が少ないことから採用人数も少なく、顧客層も限られた富裕層や法人などに限られています。
そのため、取り扱う規模も大きくなりそれだけ責任も大きいものとなり、大きな案件を扱うことからチームで働ける能力も求められます。
また、外資系証券会社では休暇を長く取ることができるのは同じではありますが(国内証券会社よりさらに長くとれる)、プロジェクトによっては残業が夜中までに至るケースがあります。また、給与が個人成績により決めるため競争が激しくさらなるハードワークを助長させます。
なお、外資系証券会社で働いているからといって海外に転勤できるわけではありません。
基本は本国の会社が中心となり、その本国の会社から各地に社員が転勤します。外資系証券会社の日本法人採用であれば基本は日本勤務となり、相手は日本人の顧客や日本市場となります。ただ、研修としての転勤、高い能力を認められれば本国で勤務できるチャンスはありますが稀であるため、もし現地で働きたいのであれば本国の会社の入社試験を受ける必要があります。
必要な資格の違い
国内証券会社、外資系証券会社ともに日本で証券業務を行うことは同じであるため、必要な資格はほとんど同じです。
証券会社で働くときに必ず必要な資格は「証券外務員資格Ⅰ・Ⅱ種」「生保一般、専門、変額外貨建」で、どれも選択式で会場のパソコンで試験を受けます。難易度はそんなに難しいものではなく1ヶ月程度勉強すれば取得できます。この必須資格は入社から1~6ヶ月で取得します。証券外務員資格Ⅰ・Ⅱ種は入社直前に受けることもあります。
その後は必須資格はありませんが、FP、CFP、証券アナリストの資格を取得する人もいます。
ただし、外資系証券会社では顧客は日本人がほとんどですが社内では外国人もいるため、高い英語力が求められます。
日本の顧客を相手にする営業であればそこまでの高い営業力は求められませんが、社内の外国人と物怖じせずコミュニケーションがとれる力は必要となります。他方、社内の外国人とコミュニケーションをとりながら仕事する部署においては高い英語力が求められ、海外の大学出身者や帰国子女が多く採用されています。
国内と外資系の年収の違い
国内証券では顧客層が広く、さらに支店の維持費用や大人数の雇用を支える人件費などの固定費部分も大きく、年収を高くすることができません。証券会社であるため、個人の営業成績が給与に反映され、ボーナスに連動しますが、毎月の給与には反映されません。
なお、給与が成績に連動する契約社員で働いている場合には、給与の固定部分は低くなりますが、営業成績をあげれば毎月の給与もその成績に連動します。
一方、外資系証券会社は、国内証券の契約社員のように営業成績は毎月の基本給にも連動する仕組みがとられています。また、国内証券に比べて国内に支店が少なく維持費が少なく済むため、会社の利益を社員の給与に連動させやすい構造となっています。
国内証券会社の平均年収は約760万円です。上場会社の平均年収約606万円(2018年時点)と比べると高い方だといえます。
証券会社別の平均年収では野村證券が1,050万円、大和証券が約904万円、SMBC日興証券が約894万円と会社別で大きく違うことがわかります。
また、職種や個人の営業成績の違いでもボーナスが大きく異なるため、実際の年収は職種や成績により大きく異なります。
国内証券会社はボーナスこそ成績により大きく異なりますが、毎月の固定給は年次ごとに一定金額あがり、さらに昇進すればその昇進後の上がった金額が安定的に受け取れます。
成績を上げていないときにおいても、安定的に生活費を稼げる点でいえば国内証券会社に軍配があがります。
ボーナス源泉は証券会社の利益から出ます。そのため、会社が赤字であればゼロかお小遣い程度のボーナスしかでないことがあります。
現在のような株式市場が活況で、新規上場が多く、ディーラーによる利益が上げやすい時期はボーナスを多く受け取れますが、リーマンショックのようなことがあれば営業成績を上げていたとしてもボーナス源泉がなく少しのボーナスしか受け取れないことがあります。
そして、外資系証券会社の平均年収は約1,050万円です。
証券会社別の平均年収ではゴールドマン・サックスがベース給600~900万円、インセンティブ含みで約1,300万円、シティグループがベース給650~900万円、インセンティブ含みで約1,100万円となり、国内証券会社よりもはるかに高いことがわかります。インセンティブを含まないと国内証券会社の方が高いこともありますが、成績によっては非常に高い年収を手にいれることができるわけです。
将来どうなりたいかで選ぶ
国内証券会社は大量採用するため、不景気でたまたま採用人数を絞っているときでない限り外資系証券会社よりも入社はしやすいです。
一方で、外資系証券会社では採用人数が少ないため、学歴や英語力のみならず、大きなプロジェクトを任せられる人間力やコミュニケーション能力、ハードワークに耐えられる精神力を見られます。そのため、学歴があり、英語力が高い人でも落ちます。特に、外資系日本法人トップのゴールドマンサックスは高い能力が求められます。
その門戸の狭い外資系証券会社に入社できれば確かな自信となるでしょう。
そもそも証券会社という職業は、「顧客の大切な資産を預かりリスクのある商品に投資する」「会社の大きな資金を運用する」など精神的負担が大きい仕事です。さらに、外資系となればそのプロジェクトの規模が大きくなりさらなる重責とハードワークとなります。
国内証券会社は入社から3年以内に退職する人が全体の3割ですが、外資系ではそれ以上の3割~5割が3年以内に退職します。その仕事の精神的、体力的負担が大きいことが分かります。
また、外資系証券会社では成績によって給与が決定するので給与が安定しません。
求める年収を手に入れるためには成績を上げるしかありません。
さらに、外資系証券会社には「クビ」が存在します。
国内証券会社ではどんなに成績が悪くてもクビになることはなく、安定的な給与を受取ることができます。
業績が悪くなると早期退職制度で退職を呼びかけることはありますが、あくまで自ら退職を願うのでクビを言い渡されることはありません。
反対に外資系では突然クビを言い渡されることがあります。個人的な原因だけでなく、会社の業績が悪いときでもあります。これは、米国の解雇規制に正当な理由があれば解雇可能としているからでしょう。
日本では労働契約法で解雇に合理的で社会的に相当な理由がないと解雇できないとされているため、「顧客の情報を故意に流出させた」「顧客の資金を流用した」など相当の理由がない限りクビになることはなく、営業を内緒でさぼっていたとか営業成績を全然上げてなくても解雇されません。
そして、外資系証券会社は日本法人であることから、撤退ということもあり得ます。2012年にはHSBC、2014年にはシティの個人部門が日本を撤退しています。本国ではなく海外子会社であるため利益を見込めなければすぐに撤退してしまうことがあります。
このように、外資系証券会社に就職すれば年収は高いものの、ハードワークと激しい競争、解雇や撤退などのリスクにさらされます。
その一方で、外資系証券会社で働いた経歴は人生の中で大きな財産となることは間違いありません。
ハードワークであることからそれだけ離職率は高く、外資系証券会社に長く勤め続ける人は少ないでしょう。
それでも、外資系証券会社で厳しい競争の中で働いてきた経験や大きなプロジェクトに携わった経験、金融知識は次の仕事でも生かされることから、離職後でも就職に困ることはありません。
国内証券会社では離職後同じ金融関係に転職することが多いですが、外資系証券会社に至ってはその経験を生かして金融関係だけでなく、広い業種で採用されやすくなります。
経歴に外資系証券会社を標榜して次のステップに進む人が多いです。
例えば、スカウト式の転職サイト「ビズリーチ」社長はモルガン・スタンレー証券(現モルガン・スタンレーMUFG証券)出身で、転職時に起業されています。転職で仕事探しをするときに自らそれぞれの会社を検索し、探さなければいけない不便さを感じ、このFA制度のような転職サイトの事業モデルを確立しました。
このように、外資系証券会社出身の方には起業して成功される方が少なくありません。
外資系証券会社での激しい競争や大きな仕事を与えられてチャレンジできることから、起業精神が養われるのかもしれません。
また、現在ゴールドマン・サックス証券でSDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・企業統治)に関する部門で働く清水大吾さんは当初日興ソロモン・スミス・バーニー証券(現シティグループ証券)に入社し、その後ゴールドマン・サックス証券に転職しました。
当初外資系証券会社では競争の中で一生懸命仕事に向き合っていましたが、リーマンショック後に目先の利益を追うだけではなく社会貢献も考慮した企業経営と投資をしたいと考え、社内で現在のSDGs・ESGの部署を立ち上げたそうです。外資系証券会社では社員が積極的に声を上げるチャンスがあり、自分発信で仕事ができ、すぐに実行できるという魅力もあります。
国内証券会社 | 外資系証券会社 | |
入社しやすさ | ◎ | △ |
年収 | ○ | ◎ |
営業成績による上乗せ | 大きい | 非常に大きい |
解雇 | ほとんどなし | あり |
3年以内離職率 | 30% | 30~50% |
退職金制度 | あり | ない場合がある |
残業 | 少ない | 非常に多い |
休暇 | 長くとれる | 非常に長くとれる |
精神的負担 | 大きい | 非常に大きい |
外資系証券会社では、成績が良ければ年齢に関係なく高収入が望めます。また、そのままその企業にずっと終身雇用で勤め続けるというよりも、自分の生涯のワンステップとして就職するのが良いでしょう。
一方で、国内証券会社でも転職することもありますが、外資系証券会社に比べれば離職率は低く安定的な収入と退職金は約束されています。したがって、入社時には最後まで勤め続けるイメージで就職するのが良いでしょう。