120時間以上の残業をする人はどれくらいいる?

仕事を続けていく上で重要なポイントとなってくるのが、残業との付き合い方です。

心身の健康を考えるなら、残業はなるべく少ないほうがいいのは当然ですが、残業代がきちんと出るのなら、ある程度の残業があることで家計が楽になり、その部分で心にゆとりができるという側面もあります。

過去の借金を返したい方、将来の蓄えをしたい方、あるいは趣味に使うための余剰なお金が欲しい方などは、自ら進んで残業したいかもしれません。

しかし、過剰な残業は心身へのダメージとなり、残業代が出たとしてもマイナスのほうがはるかに大きいものとなります。

過剰な残業の一例としてまず、1ヵ月120時間の残業を行っているケースを考えてみましょう。

120時間というのは、週休2日として毎回5~6時間の残業、つまり、定時が9時~5時勤務や10時~18時勤務の方であれば、終電近くまで働いた場合の残業時間数であり、いわゆる「働き詰め」の状態ということになります。

まず、現状把握ということで、1ヵ月120時間以上の残業をしている方がどれくらいいるか知りたいところですが、「120時間以上の残業」を行っている人数の統計データがないため、ここでは「100時間以上の残業」の項目が含まれる厚生労働省の統計を参考にしたいと思います。

【1か月の特別延長時間の分布(特別条項がある事業場、企業規模別)】
区分合計大企業中小企業
45時間以下1.7%1.5%1.9%
45時間超50時間以下2.3%1.5%3.5%
50時間超60時間以下23.5%23.6%23.4%
60時間超70時間以下14.8%15.0%14.5%
70時間超80時間以下36.2%33.5%40.1%
80時間超100時間以下16.0%18.3%12.7%
100時間超5.5%6.6%3.9%

36協定における特別延長時間(特別条項)の状況

この表でまず注目したいのは、「100時間超」の割合が「45時間以下」よりも高いことです。

1ヵ月に「45時間以下」の残業なら心身に負担のない時間数といえますが、それよりも心身に過重な負担のある「100時間超」の残業を行っている人方が多いというのは大きな問題といえます。

また、これを見ると、「100時間超」に関しては大企業のほうが多いことが分かります。大企業というと基本給が良く、残業代もきちんと出る印象ですが、その分、過重な労働をしていることがここから分かります。

なお、「36(サブロク)協定」とは、労働基準法が定める法定労働時間「1日8時間・1週間40時間以内」を超えて、会社側が雇用者を残業させたい場合に、結ばなければならない労使協定のことです。

労使間で「36協定」が結ばれると1ヵ月45時間までの残業が可能となり、さらに、臨時の特別な理由がある場合、「特別条項」として年間6ヵ月までなら労使の合意により1ヵ月100時間未満の残業が可能となります。この上限を超えると会社側には罰則が与えられます。

この表のデータは平成25年の調査に基づいており、当時は罰則付きの上限がなかったため「100時間超」でも法的には罰せられませんでしたが、今ならこれは法的にも完全にNGです。

一点留意したいのは、このデータは「36協定・特別条項」のある会社を対象したものであり、すべての会社を対象とするものではないということです。そのため、すべての会社を対象とした場合、残業時間はもっと少なくなります。

とはいえ、「36協定・特別条項」のある会社は大変多く、厚生労働省による平成25年の調査では、「36協定」のある事業所は全体の55.2%、その中のさらに40.5%が「特別条項あり」となっており、全体では22.4%の事業所が「36協定・特別条項あり」となっています。

また、いわゆる「ブラック企業」と呼ばれる会社なら、「36協定」を結ぶ労使間の話し合いの場がそもそも設けられておらず、法令を無視して1ヵ月100時間を超え、120時間にも至るような過重な労働を強いられているケースもあるはずです。

残業120時間以上だとこんな生活になる

では、残業が120時間に及ぶとどのような生活になるのでしょうか? 想定として次のような生活が考えられます。

残業120時間の方の生活

1日の平均残業時間は5~6時間以上

1ヵ月120時間ということは平均すると、週6日勤務なら毎日5時間程度の残業、週5日勤務なら毎日6時間程度の残業となります。

17時に定時を向かえる会社なら帰社は23時となり、プライベートの時間は入浴と睡眠くらいしか持てないでしょう。

帰って寝るだけの生活

定時の退勤時間が17時、あるいは18時とすると、5~6時間残業するとほぼ終電近くとなり、家について一息つく頃には日付が変わるくらいの時間となります。

そこから、入浴や身の周りのことを済ませると深夜1時、2時となり、翌日も会社ならすぐに寝る必要があります。

朝は寝不足気味で起床

9時出勤なら7時には起きることになるでしょう。深夜2時の就寝なら睡眠時間は5時間です。

これは明らかに寝不足であり、体は重くて頭はぼんやり働かず、仕事の効率はかえって悪くなります。

長期間これを続けると何らかの病気になる可能性が高いといえる状態です。

通勤時間は寝る時間になる

慢性的に寝不足が続くため、通勤時、電車で座れた場合はうたた寝をすることになります。

しかし、横になって眠るわけではないので十分に疲労が取れることはありません。

また、立ったまま寝てしまうと転倒の危険があるほか、車通勤の方なら居眠り運転で交通事故を起こす可能性もあります。

早朝出勤・休日出勤・会社での泊まりも

1ヵ月120時間を超える残業をしているような方は、終電までに仕事のノルマをこなせず、早朝出勤や休日出勤で補うこともあるはずです。

あるいは、会社で泊まりというケースも考えられます。

いずれのケースも、本来ならとるべき休息を十分とれないので心身の疲労が抜けず、またプライベートが皆無で気晴らしもできないためストレスはどんどん溜まります。

休日になっても休まらない

休日をとれたとしても、普段より少しゆっくり寝られるほかは、溜まっている洗濯や部屋の掃除などにほとんどの時間を費やしてしまい、プライベートな時間をほとんど確保できません。

休日にしっかり休めないということは疲れがどんどん溜まっていくことになるので、心身共に疲弊していきます。

栄養の偏った食生活になる

自炊をする時間がなく弁当も作れないため、ほぼすべての食事が外食となり、栄養の偏った食生活となりがちです。

家族が弁当をもたせてくれる場合も、夕食は外食になったり、あるいは夕食抜きで夜食をとったりなど、食生活が乱れやすいでしょう。

やがて生活が荒廃していく

こうした生活を毎日繰り返していると、仕事以外は何もする気力がわかなくなり、食事や風呂も面倒になって、自室も常時散らかった状態になる可能性があります。

こうなると心身も荒廃し、さらに生活が荒廃するという悪循環に陥り、そのうち仕事でも大きなミスを犯すことになってしまいます。

残業120時間以上だと心と体のバランスが次第に崩れていく

ここで、厚生労働省が公表している脳・心臓疾患と精神疾患の労災補償状況を見てみましょう。

脳・心臓疾患の労災補償状況
区分平成30年度
脳・心臓疾患請求件数877件
決定件数
(うち支給決定件数)
689件
(238件)
うち死亡請求件数254件
決定件数
(うち支給決定件数)
217件
(82件)

 

精神障害の労災補償状況
区分平成30年度
精神障害請求件数1820件
決定件数
(うち支給決定件数)
1461件
(465件))
うち死亡請求件数200件
決定件数
(うち支給決定件数)
199件
(76件)

このうち「決定件数」とは、業務が原因であったか否かの決定を行った数で、「支給決定件数」とは労災として認められたものをいいます。

適切な職場環境であれば、脳・心臓疾患や精神疾患が業務を原因として引き起こされることはありません。

つまり、労災支給が決定したものに関しては、過重な仕事量やストレスの大きい仕事によって心身に大きな負担が与えられ、それが病気を引き起こしたという因果関係が証明されたケースということになります。

また、確実な因果関係は証明されないけれど、過重な仕事量やストレスの大きい仕事が発症に何らかの関与をしているケースまで含むとすれば、さらに大きな数字になる可能性もあります。

同じ調査では労災支給となったものについて、1ヵ月平均の残業時間を調べたデータも紹介されています。

脳・心臓疾患の時間外労働時間別支給決定件数(平成30年度)
区分合計うち死亡
45時間未満00
45時間~60時間未満21
60時間~80時間未満136
80時間~100時間未満8828
100時間~120時間未満5424
120時間~140時間未満306
140時間~160時間未満175
160時間以上1910

まず、「脳・心臓疾患」のほうですが、こちらでは「80時間~100時間未満」と「100時間~120時間未満」の区分がピークとなっており、残業時間との明らかな因果関係が見られます。

これを超える労働時間では件数が少なくなりますが、常識的に考えて、労働時間が多いほど脳・心臓疾患のリスクが減るとは考え難いので、残業が120時間を超える人数が全体として少ないためだと考えられます。

精神疾患の時間外労働時間別支給決定件数(平成30年度)
区分合計うち自殺
20時間未満828
20時間~40時間未満304
40時間~60時間未満378
60時間~80時間未満276
80時間~100時間未満309
100時間~120時間未満6116
120時間~140時間未満3410
140時間~160時間未満175
160時間以上356
その他1124

一方、「精神疾患」ほうは、精神的なストレスにはさまざまな要因があるためか、全体的に分散している印象があります。

それでも、「100時間~120時間未満」の区分で件数が突出しているところには目が向かいます。

この表でも分かるように精神障害における死亡例とは自殺のことです。

過労による自殺は社会問題となっていますので、企業への監視や罰則は厳しくなっていますが、根底として経営者や上層部の意識が変わらない限り0にすることは難しいでしょう。

長時間労働の危険性。過労死と過労自殺

長時間の残業で荒廃した心身が最終的に行きつく先が過労死と過労自殺です。

何の対処もしない場合は、そこまで行ってしまう可能性があります。

先ほどのデータにある「脳・心臓疾患」は過労死のリスクに直結し、「精神障害」は過労自殺のリスクに直結します。

また、それ以外にも長時間労働によって睡眠・休息が不足し、家庭生活や余暇の時間をほとんど確保できないことにより心身の疲労回復が妨げられ、さまざまな疾患を招きやすくなります。

また、それだけ残業が多いということは、業務上、過大な成果を求められていたり、時間的な制約のきつい中で働かされているはずで、そのこと自体もかなりの精神的プレッシャーとなるはずです。

当然、単に労働時間が長いというだけでなく、仕事の効率を上げるため極度に集中した状態を強いられ、残業は質的にも量的にも過重な負担を心身に与えていきます。

そうした背景があることから、労働行政では過労死ラインとなる残業時間を1ヵ月80時間としています。おおまかに1ヵ月20日の出勤とすると、1日4時間以上の残業(計12時間労働)で過労死のリスクが高くなるということです。

厚生労働省の「36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針」では、残業が1ヵ月45時間を超えて多くなるほどに、業務と「脳・心臓疾患」の発症との関連性が徐々に強まり、1ヵ月100時間を超えるか、2~6ヵ月の平均が80時間を超えると、業務と脳・心臓疾患の発症との因果関係がはっきり確認されるとしています。

同指針ではこうしたデータを踏まえ、「36協定」の範囲内の残業であっても雇用者は労働者に対する安全配慮義務を負うとしています。

脳・心臓疾患による過労死として多いのは、脳の血管が詰まる脳梗塞や脳の血管から出血するくも膜下出血などの脳血管疾患のほか、心筋の血管の詰まりによる心筋梗塞など虚血性心疾患によるものです。

これらの疾患では、直前まで元気そうだったのに突然発症するケースが数多くあります。

一方、過労自殺については、過労により発症したうつ病が原因で自殺に至るケースがほとんどです。

うつ病になったことのない方は、「気分がうつうつと落ち込んだくらいで自殺なんて」と思うかもしれませんが、うつ病患者の希死念慮(自殺願望)は症状の1つであり、単なる気分の問題ではありません。

過労によるうつ病であれば、その労働環境を改善すると同時に適切な医療を受け、自殺という結末を避けることが何より大切です。

そのほか、長時間残業による健康へのマイナスということでは、睡眠不足や過労により勤務中や通勤途中で交通事故を起こしたり、あるいは自宅で入浴中に寝てしまい溺死するケースなどが考えられます。

残業が特に多い業種は?

一般論として、残業が特に多い業種としては次のようなものが挙げられます。

新聞・テレビなどのマスメディアや広告メディア

情報の速さが何より重視されるため、昼夜問わずの仕事になりやすいといえます。

また取材先に合わせて日時を調整したり、期日があったりと相手に合わせつつ仕事を期日までに仕上げることが重要なので、やりがいを求めている方であれば続けられますが、そうでない場合は残業がきつくなってしまいます。

IT業界

納期が迫ると泊まり込みで作業をするような会社もあれば、トラブル対応のため長時間の残業、休日出勤もあります。

クライアントや依頼者に合わせて動くこともなるため、現場により残業が続く場合もあるでしょう。

建築業界

工期があり遅れが許されないため、状況次第では長時間の残業を余儀なくされます。

小売・外食産業

人手不足とコストカットによる負担が社員にかかり、結果的に長時間残業になることもあります。

シフト制を入れているところも多く、誰かが体調不良で休んだ場合は残業や休日出勤もあります。

もし、これらの業種への転職を考えているなら、求人に掲載されている形式的な労働条件だけでなく、実際の業務がどのように行われているのか、特に残業のあり方などについてよく確認したほうがいいでしょう。

もちろん、これらの業種に当てはまらない会社でも残業が長時間に及ぶことがあると思われるので、事前によく確認し、「こんなはずじゃなかった」ということのないようにしたいものです。

過度な残業はデメリットの方が圧倒的に多い

残業をすると残業代が出るので見方によってはメリットが0ということではなありません。

ただし、その残業が本当に必要な残業なのかということは考えなくてはいけませんし、残業時間が長時間になればなるほど心身へのダメージが大きくなります。

いくら残業代で収入が増えたとしても健康でなければ意味のないものとなってしまいます。

残業時間を大きく減らすためには自分だけの力ではなく会社の体制による問題もあります。

もしも同じ会社に居続けたとして、今後残業時間を減らすことができなさそうであれば転職を検討するのも一つの手でしょう。