パーソナルハラスメントの定義

近年「○○ハラスメント」という言葉数多く登場しています。「パワハラ」「セクハラ」「モラハラ」、「ハラハラ」という「ささいなことでもハラスメント扱いにする」なんてものまであります。

新たな言葉が生まれる背景にはそれに対応する状況があるはずで、既存の言葉ではうまく捉えきれない状況があるために、新たな「○○ハラスメント」が生まれると考えるべきでしょう。

ここで取り上げる「パーソナルハラスメント(パーハラ)」もそのようにして生まれた言葉・概念の1つであり、端的に説明すると、個人の容姿などの身体的特徴や言い回し、しぐさなどのクセ、性格、そのほかの個人の属性など、個人的(パーソナル)な要素に目を付け、それを指摘することで相手を否定したり文句をつけたりするような行為を指します。

 

これは職場だけでなく、学校や友人関係、家庭などどこでも起こりうるものであり、特にいじめと連動することが多くあります。

「チビ」「デブ」「ブス」「ヤセ」「ハゲ」「短足」「くさい」「のろま」「キモい」など、誰でもどこかで一度は聞いたことがあるはずです。また、自分自身も口にしたことがあるかもしれません。

もちろん、相手を否定したり文句をつけたりするような文脈ではなく、親しい間柄における「じゃれあい」として口にされることもありえますが、自分が「じゃれあい」のつもりでも、相手は「いじめ」と捉えていることがあります。

パーソナルハラスメントの起きやすい環境

ただ、はっきりと「パーソナルハラスメント」といえる状況が起きやすいのは、メンバー間に十分な信頼関係が築かれていなくても一緒に行動しなければならない、というような社会集団においてです。学校のクラスや職場などはその典型でしょう。

そうした場では、互いの個人的な特徴を認識できる一方で、誰もが信頼関係を十分に築いているわけではないため、一部で個人的な特徴を揶揄する行動が生じてきます。

集団内で派閥が形成されていたり、上位の存在(教師や上司)による不当なえこひいきなどがあったりすれば、そうした行動はなおのことエスカレートする可能性があります。

ここで重要なのは、こうした状況下では「パーソナルハラスメント」は偶発的に生じてしまうため、誰もが被害者になり得る一方、誰もが加害者になり得るということです。

 

そして、直接の暴力行為がなくても、言葉の暴力としての「パーソナルハラスメント」により、不登校やひきこもりになったり、うつ病の発症や自殺にまで追い込まれたりするケースがあるということです。

まずはパーソナルハラスメントの3つのタイプについて確認していきましょう。

パーソナルハラスメントの3つのタイプ

パーソナルハラスメントとパワハラ、セクハラがどのように区別されているかご存知ですか。実は、これらははっきり分類できることは少なく、むしろ複合して起きることが多いのです。

「パーソナルハラスメント」の3つのタイプとして、ほかのハラスメントとの複合例を次に紹介しましょう。

パーソナルハラスメント+パワハラ

部下の仕事のミスなどに対して上司が叱責する場合に、「脂肪溜めるだけじゃなく、仕事も溜めるのか」「図体ばかりデカくて仕事じゃ使えないヤツだな」「やっぱり(部下の名)って名前のヤツは使えないな」など、仕事の能力とは関係のない個人の特徴を引き合いに出して叱責するのは、パワハラ(パワーハラスメント)であると同時に「パーソナルハラスメント」となります。

パワハラというと大声で威圧するとか、長時間叱責するとか、過重な労働を強要するといった行為ばかりが注目されがちですが、こうした個人の特徴をあげつらう言動が上司からぶつけられると、部下にとっては大きなストレスとなります。

パーソナルハラスメント+セクハラ

身体的な特徴の指摘のうち性的な要素を強調して相手を否定したり、文句をつけたりする場合、セクハラ(セクシャルハラスメント)というだけでなく「パーソナルハラスメント」にもあたります。一例として、「その年齢で(性行為の)経験がないってヤバいよ」「頭の栄養が胸にいってるんじゃない?」「安産型なのになかなか結婚できないね」といったものが挙げられます。

セクハラでは身体的特徴について言及することが多いので、必然的に「パーソナルハラスメント」にもなってしまいがちです。

パーソナルハラスメント+モラハラ

モラハラ(モラルハラスメント)とは言葉や態度で相手の心を傷つけることを指し、上司や異性だけでなく、同性の同僚や友人、家族からも受けることの多いハラスメントです。

モラハラは個人的な特徴を揶揄することも多く、それは同時に「パーソナルハラスメント」となります。一例として、「メガネくんは、メガネかけてる割に頭悪いね」「オタクっぽい外見してるからモテないんだよ」「声が小さくて聞こえないから、しゃべらないほうがいいんじゃない?」などが挙げられます。

モラハラは、アドバイスやじゃれあいのように行われることもあり、発している本人や第三者の目からはささいなこととして受け取られがちです。しかし、それが個人の特徴に言及するものである場合は特に、受け手の心に大きな傷を残すことがあります。

 

ここでは3つのタイプを挙げましたが、個人の特徴をあげつらう「パーソナルハラスメント」は基本的にどのようなハラスメントとも複合しやすいので、実際には3つだけにとどまりません。

パーソナルハラスメントの実例

「パーソナルハラスメント」は比較的新しい概念であるため、公的な資料の中にその実例を見つけるのは困難です。しかし、パワハラの言動例の中に「パーソナルハラスメント」にあたるものがあり、公的な資料でも取り上げられています。

たとえば人事院の「パワー・ハラスメント防止ハンドブック」では、参考資料として、職員福祉局課長から各府省人事担当課長あての「『パワー・ハラスメント』を起こさないために注意すべき言動例」という通知が挙げられています。

そこで紹介されている事例として、普段からおとなしい部下に対して何かにつけ「君はネクラだ」「もっと明るい顔をしろ」「君のプレゼンが下手なのは、暗い性格のせいだ。何とかしろ」などと言う上司の話があります。

またパワハラに関係する判例として、部下があるカルト宗教の教祖に似ているとからかうなどのいじめを繰り返し、後にその部下が自殺してしまったケースを紹介しています。

こうした「パーソナルハラスメント」は、ほかのハラスメントと複合して生じやすいので、目立ちにくい面がありますが、言われた側は心をえぐられる思いがするものです。

 

「パーソナルハラスメント」とは分かりにくい言動

そのほか、一見「パーソナルハラスメント」とは分かりにくい言動もあります。たとえば、次に挙げるようなものです。

  • 相手の口グセや動きをまねる行為
  • 容姿など身体的特徴を揶揄するようなアダ名をつける
  • 性体験の有無や経験内容を揶揄する

ごく親しい間柄なら文脈的にハラスメントとはいえないケースもありそうですが、そこに否定や文句をつけるようなニュアンスがあれば、親しい仲でも「パーソナルハラスメント」には違いありません。

パーソナルハラスメントの対処法

では、もし自分が「パーソナルハラスメント」を受けてしまった場合はどうすればいいのでしょうか?

その対処法の前にまずはっきりさせておきたいのは、個人的な特徴を指摘されたことで傷つけられたとあなたが感じたなら、相手に悪気があろうとなかろうと、それは「パーソナルハラスメント」だということです。

 

いじめでよくあることですが、いじめている側は単にじゃれているだけのつもりで、いじめている自覚がないケースがあります。しかし、「じゃれているだけだから、いじめではない」ということにはなりません。いじめられている側が何らかの苦痛や不快を覚えているなら、それはいじめです。

「パーソナルハラスメント」も同様で、あなたが傷ついたり嫌だと感じたりしたなら、それはれっきとした「パワーハラスメント」になるのです。

それを踏まえた上で次に「パーソナルハラスメント」への対処法を見ていきましょう。

①不快であることを相手に伝える

相手に悪気がない場合、あるいは悪気を自覚していない場合、「あなたの言動に私は傷ついています」「あなたの言動を嫌だと感じます」ということをはっきり伝えることで、「パーソナルハラスメント」となっていた行動が止むケースがあります。

また、場の雰囲気を悪くしたくないからと、相手の「パーソナルハラスメント」的な言動に合わせて愛想笑いを返すよりも、毅然とした態度を見せたほうが自分自身の精神衛生にもいいはずです。

ただし、この方法は相手に明確な悪意のある場合は通用しないどころか、かえって状況を悪化させることがあるので、相手との関係性なども考慮して実行する必要があります。

②周囲の信頼できる人に相談する

相手に対して面と向かって意思表示しにくい場合や、事態が改善しない場合、会社であれば信頼できる同僚や上司に相談するのも1つの方法です。それにより、一緒に対策を考えてもらったり、あるいは、それとなく相手に伝えてもらったりするなどの対処が可能となります。

しかし、あくまで個人間のやり取りとなるため、会社では社内の人間関係や立場などの制約により、打てる手が限られてくることもあります。

③社内の相談窓口を利用する

会社での問題なら、ハラスメントの訴えに応じてくれる相談窓口を利用するのも選択肢の1つとなります。ハラスメントなどの問題に誠実に取り組む方針を持つ企業であれば、公平な視点で対処してくれるはずです。

その相談の際は、「パーソナルハラスメント」と見なされる会話の記録(ノートや録音など)を用意しておくといいでしょう。

④部署を変える、あるいは仕事を変える

そうした相談の結果、自分か相手の部署を変えてもらうなどして物理的な距離を置くことができると、それだけで「パーソナルハラスメント」がなくなることがあります。

先に説明したように、「パーソナルハラスメント」は「メンバー間に十分な信頼関係が築かれていなくても一緒に行動しなければならない社会集団」で生じやすいため、同じ集団にいないことで必然的に生じにくくなるのです。

あるいは、最後の手段として、仕事を変えて相手から接触できないようにする方法もあります。ただし、これは辞める本人にとっては失うものが多い対処法です。

⑤法的措置をとる

相手に対して法的措置をとるという方法もあります。その場合、刑法では名誉棄損罪や侮辱罪を問えるほか、民法では不法行為にあたることがあります。

パーソナルハラスメントに法的措置をとった場合

「パーソナルハラスメント」に対してとれる法的措置である、名誉毀損罪、侮辱罪、不法行為について、それぞれ説明しましょう。

名誉毀損罪

刑法第230条には「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する」とあります。

人前で事実を示して名誉を毀損した場合に「名誉毀損罪」に問えるということですが、ここでいう「事実」とは偽りの事実も含まれます。そのため、根も葉もないウワサを取り上げて相手の名誉を貶めたり、相手を否定するために偽りの事実を示したりするケースなどでも、名誉毀損罪に問われる可能性があります。

一例として、仕事にミスが多いことを責めるときの「こんなミスをするなんてお前は○○病なんじゃないか」とでたらめな事実を作るといった発言などがあります

ただし、政治家のスキャンダル報道など、公益のために公に真実を示したケースなどに関しては処罰対象とはなりません。

侮辱罪

名誉毀損罪の項目に続く刑法231条には、「事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する」とあります。

つまり、名誉毀損罪とは違って事実の提示がなくても侮辱罪として罪に問うことが可能であり、一例として、仕事にミスが多いことを責めるときの「こんなミスをするなんてお前は頭がサル並みだな」といった、事実の摘示は無く単純に相手を馬鹿にする発言などが挙げられます

なお、名誉毀損罪と侮辱罪はどちらも親告罪(被害者が告訴しなければ罪を問えない)となります。

不法行為

名誉毀損罪と侮辱罪に共通するのは「公然」の前であるという点です。つまり、その名誉毀損的・侮辱的言動は第三者がいるところで発せられたものでなければ罪に問えないことになり、たとえば、他に誰もない場所において1対1で「パーソナルハラスメント」的な言動をとられた場合には、名誉毀損罪や侮辱罪を問うことはできません。

しかし、その場合でも不法行為として賠償請求ができることがあります。これは民法710条「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない」という規定にあります。

ここには「公然」の文言はないため、名誉の侵害を証明できれば慰謝料を得られます。

 

慰謝料の相場は名誉毀損行為で10万円~100万円、侮辱行為で10万円未満といったところです。裁判まで起こして10万円未満というのは少なく感じますが、これについては、慰謝料だけでなく相手の責任を法的に問えることの意義まで併せて考える必要があるでしょう。

自分自身も加害者にならないように

悪気なく「パーソナルハラスメント」をしてしまう可能性について先にも述べましたが、自分自身もそのように悪気のない加害者にならないよう注意する必要があります。

ここまで説明してきたように、何気ない発言でも相手を傷つけてしまうことがあるので、ちょっとしたからかいのつもりでも、取りようによっては悪口となるような言葉は避け、相手の反応をよく見ながら発言するよう心がけましょう。

そして、相手の顔色やリアクションから「失言だったかな」と思われたときは、素直に「言い方が良くなかったらごめんなさい」と謝ることです。

また、普段から特に必要がない限り、容姿やクセや性格といった個人の特徴については触れない習慣を身に着けておくべきです。それにより、たとえば仕事内容について部下に注意するような場合でも、相手の個人的な特徴をあげつらうような言葉がうっかり飛び出してしまうことを避けられます。

 

もう1つ注意したいのは、誰かから「パーソナルハラスメント」を受けたとしても、そのうっぷんを晴らすためにSNSなどで相手を悪く書くようなことは控えたほうがいいということです。

相手から容姿をバカにされたからといって、返す刀で相手の容姿をバカにする内容をSNSに書き込み、しかも個人を特定できるような内容にしたなら、今度は一転してあなたが加害者となってしまいます。

このように「パーソナルハラスメント」は、多くの方がハラスメントと思わずにやってしまいやすいものだけに、意図せず加害者になってしまわないよう気をつけておきましょう。