時々ネット上で「IT業界はやめとけ」というフレーズを聞いたことはありませんか?
IT業界というと華やかなイメージが強く、市場規模も年々拡大している業界ということもあり、学生の新卒や中途の転職をしている人たちにも人気のある業界です。
新しい技術を使ったり、これまでの生活を一変させるようなサービスをリリースできる可能性があるなどの魅力的である一方で労働環境についても苦言が入ることが多いです。
この「IT業界はやめとけ」という言葉は事実なのか、それとも一部の側面を切り取った場合の言葉なのかということについて解説をしていきます。
IT業界にはどんな仕事がある?
そもそもIT業界というのは、経済産業省の分類する「情報サービス業」という業種に当てはまり、「ソフトウェア業」「情報処理・提供サービス業」「インターネット附随サービス業」の3つの業種のことを指します。
ソフトウェア業
パソコンやスマートフォンなどで情報を検索することや文章を入力するなど、コンピューター上のさまざまな処理をおこなうときに必要となるプログラムやアプリケーションの作成、または作成に関する調査・分析・助言などのサービスを行う仕事になります。
プログラムやアプリケーションは、目にすることの多いオフィス用ソフトやセキュリティーソフトだけではなく、多くの電化製品に組み込まれていたり、ゲームにも利用されています。
情報処理・提供サービス業
ソフトウェア業よりも幅広い業務が当てはまり、お店のレジシステムや流通システムなど、生活に関するあらゆるもののシステムを開発していくことや社内コンピューターの運用・管理・保守などのほかに、気象情報などさまざまなデータを収集・加工・蓄積したものを提供するデータベースサービス、市場調査・世論調査などの各種調査サービス、データの入力といった仕事が含まれます。
インターネット附随サービス業
子どもからお年寄りまで幅広い年代の人が利用することが多いインターネットにまつわるあらゆる業務のことを指し、情報検索サービスやSNSの運営、ウェブコンテンツの配信、課金・決済の代行業なども含まれます。
どの業種を見てもコンピューターやシステムに関わっていることから、最先端なイメージがあり周囲からカッコいいと思われるIT業界ですが、転職を考えるのであればメリットだけではなくデメリットもきちんと知っておくべきでしょう。
IT業界は本当につらい?~IT業界ならではのつらさとは~
今やITなしでは社会が回らないほど生活と密接しており、暮らしを支えているといっても過言ではないIT業界ですが、反面「IT業界は大変だからやめておけ」と言われることも助言されてしまうこともあります。
IT業界のどのような点が大変な仕事と言われているのか確認しておくことで、自分がIT業界でやっていくことができるのかという心の準備ができるのでチェックしていきましょう。
①労働時間が長い
「厚生労働省毎月勤労調査 令和元年分結果速報(2020)」の調査によれば、情報通信業の総労働時間は月154.2時間となっており、調査対象となった全産業の139.1時間よりも15時間ほど多いという結果が出ています。
情報通信業には、IT業界だけではなく、メディア業界や通信業界も含まれますが、平均よりも総労働時間が多いことが確認できます。
また転職サイトのdodaが2019年に発表した調査によれば、IT業種の10種の残業時間の平均は26.3時間となっており、全体の平均の22.8時間よりも3.5時間多いという結果になっています。
詳細を確認していくと、残業時間が一番少ないWebコンサルティングなどを請け負う「Webインテグレーター」や「ITコンサルティング」を除けば、「ハードウェアメーカー」の23.1時間から「コンサルティングファーム/シンクタンク」の35.3時間、「EC/ポータル/ASP」の36.5時間となっています。
これらの調査結果から、多くのIT業界の労働時間は平均よりも多いということがわかります。
②開発工程には請負が多い構造となっている
システム開発の仕事の場合、一つの会社ですべてを作るということはなく、システム開発を引き受けた会社からさまざまな会社に業務が降っていく「ピラミッド構造」になっていることで、業界特有の大変さが生まれています。
システムを開発したい企業から依頼を受けた会社がどのようなシステムを作り、開発していくのかを決めていく「一次請け・元請け」となり、一次請けの会社が作ったシステムの大枠を元に、システムを実際に開発していくのが「二次請け」、大きなプロジェクトの場合は、5次請け・6次請けというように、多重下請け構造となっています。
「ピラミッド構造」で下請けに工程が発注されるごとに手数料(マージン)が抜かれていくため、利益が減ってしまい、結果的に下の下請け会社になるほど給与が下がってしまうというシステムになっているため、仕事の割に給料が低いということにつながっていることがあります。
③成長している業界であり人手不足
2019年の経済産業省の調査によれば、インターネット付随サービス業や情報サービス業の平成25年~平成29年度の5年間の売上高の推移は、基本的に右肩上がりとなっており、平成29年度にはインターネット付随サービス業の売上高は前年度比1.2%増で最高値を更新しています。
近年、新卒のIT業界への就職割合は増えてはいますが、市場の拡大に対しての人材の確保や人材育成が追いつかず、経済産業省の2019年の調査によれば、2020年で30万人、2030年には45万人の人手が不足するという見込みになっています。
人手が足りない状態で仕事を行うため。一人ひとりの仕事量が多くなり、仕事量・仕事内容ともに大変なものとなっています。
④中小やベンチャーの企業が多く玉石混交
IT業界は1990年頃から急激に成長を遂げてきた新しい業界であり、今後もさまざまな技術進化が期待されているため、ベンチャー企業などの参入もしやすく、中小規模の企業も多く存在しています。
企業によって当たりはずれが大きいため、福利厚生がしっかりしている会社もあれば、就業環境の悪い会社もあるため、悪い噂ばかりが広まって「IT業界はつらい」と業界全体を指してしまっているというのも考えられます。
IT業界は本当につらい?~職種ごとのつらさとは~
業界特有の仕組みや急成長を遂げているIT業界ならではの大変さというものがあることを確認しましたが、IT業界という大きな枠の中には、多くの職種があります。
その中から、人数の多い「エンジニア職」と「営業職」を取りあげ、それぞれの職種にどのようなつらさがあるのか、詳細を確認していきましょう。
エンジニア職における大変な点とは
納期厳守であるという点
どの仕事にも言えることではありますが、システム開発では納期を守ることが大切であるため、どんな理由があっても納期までに作業を終える必要があり、納期前は総動員で残業をして作業に当たるというケースもあります。
状況によっては何日間も会社から帰ることができずに泊り込みで行うこともあるようです。
このような過酷な状況での作業を「デスマーチ」と呼ばれます。
障害があれば、休みの日でも駆けつける必要があるという点
システムの障害は日時関係なく起きるため、障害が起きた際には、深夜であっても休日であっても対応する必要があります。
どの会社のシステムも障害の時間が長くなればなるほど損害が大きくなってしまうので、クライアン側としては「休みでも必ず対応してほしい」という前提で依頼をすることは多いです。
SES(=他の企業に常駐して働く)という働き方のとき
エンジニアの働き方の一つに、SES(System Engineering Service)として、他社のソフトウェアの開発・保守・運用をするために、特定の業務に対して他社に派遣されて、派遣先の企業に常駐して働くという形態があります。
SESの場合、仕事に就くまで勤務時間や勤務場所が決まっていないということもあり、クライアントによっては他の派遣社員と区別がついていないことで業務以外の仕事を振られてしまうということもあるでしょう。
育成があまり行われない
現在では、外部サービスが安価になっていることや、育成のための時間がない・過度なマニュアル化によって自分で学ぶという機会が減っていることから、自社で育成をおこなうことが難しいという企業もあります。
そのため、社内で勉強する環境が整っていない場合は、自分で勉強をする以外にエンジニアとしての腕を磨くことはできず、情報交換の機会も少なくなってしまうため、技術や知識を向上させることが難しくなってしまいます。
ビジネス職(營業職)における大変な点とは
ITへの理解が必要
システム開発などの仕事を取ってくる営業の仕事においても、自分でプログラミングなどをおこなうことができなくても、ITや自社の技術について詳しく理解している必要があります。
どの業界においても同じことは言えますが、ITのことに苦手意識がある方にとっては、知識を身につけることは、大変な勉強が必要になると言えるでしょう。
中途半端な知識のまま案件を受注してしまうと、いざ会社のエンジニアに仕事内容を話したときに「その案件がそのな納期で終わるわけない」と突き返されれることもあります。
クライアントと技術者(エンジニア)の間を上手く取り持って円滑に仕事を進める必要があるので、常に気を配らなくてはなりません。
IT業界に向いている・向いていないのは、どんな方?
IT業界や職種にまつわる大変な点を確認してきましたが、IT業界は全体的に人手不足であり採用も増えているため募集への応募を検討したいという方は多いでしょう。
IT業界には、技術者だけではなくさまざまな職種が考えられるため、経験者はもちろん未経験者でも自分でプログラミングをおこなう必要のない営業職やマーケティングなど、技術がいらない職種への転職は、難しいことではありません。
また、未経験だけど技術職に転職したいという方でも、求人は少ないですが、プログラミングやWebデザインの学校へ通うことでポートフォリオを作って営業することができ、学校から転職先を紹介してもらえる場合もあります。
今後も成長していくことが期待できるIT業界には、どのような方は向いていて、どのような方が向いていないと言えるのかを確認していきましょう。
IT業界に向いている方
コツコツと仕事が好きな方
システム開発では、プログラムや設計書を書いては確認してというルーティンワークも多いです。
コツコツと仕事を進めていくことが多いため、そのような作業が好きな方はITエンジニアに向いていると言えるでしょう。
勉強が嫌いではない方
IT技術は、日々どんどん進化していくため、それに伴ってどんどん新しいことを学んでいかなければなりません。
わからないことは自分で勉強して、知識を取り込んでいきたいという好奇心を持ち続けることができる方が向いていると言えるでしょう。
機転を利かせることが得意な方
マニュアル化の進んでいるIT業界ですが、突発的なトラブルが起こることは日常茶飯事であり、その対処に対して猶予が十分でないことも珍しくありません。
どうやって切り抜けるかということに機転を利かせることで、日々起こる問題を乗り越えていくことができるでしょう。
柔軟な考え方をすることができる方
トラブルや開発をおこなう際には、小さなことにこだわりすぎるよりも、時代の流れに敏感で、効率的な方法を検討しながら柔軟に仕事のやり方を変えていくことができる方には向いていると言えるでしょう。
体力がある方
エンジニアではデスクワークが基本となりますが、納期直前で忙しいときやシステムトラブルなどで急に徹夜が続くことになってしまった際など、体力があることが必要となります。
多少は楽天的な方
いつ・どんなトラブルが発生するかわからないため、突然のシステムトラブルや納期直前の変更、スケジュール通りに開発が進まないときなどでも、「なんとかなる」「なんとかする」と前向きに仕事に取り組むことは大切です。
トラブルに対して全く備えを考えていなかったりするのは問題ですが、最善を尽くしていても上手くいかない時はあるという気持ちで仕事ができる人がIT業界に向いていると言えるでしょう。
IT業界に向いていない方
大雑把な人
プログラミングや設計書作りには間違いが許されず、1字違っただけでもプログラムがうまく作動しなくなってしまいます。
正確なアウトプットが大切なエンジニアには、大雑把な方やおおらかな考え方で仕事をしたいという方には向いていないと言えるでしょう。
完璧主義すぎる方
コツコツとした作業が大切なエンジニアの仕事ですが、反面、こだわりすぎてしまうと納期に間に合わせることができません。
向いている人の特徴で紹介させていただいた「柔軟な考え方をすることができる方」と共通する部分ですが、その場その場で解決策を考えたり、状況に合わせて動ける人でないとチームに悪い影響が出てしまうこともあります。
残業をまったくしたくない人・予定を変えるのが嫌な方
残業が極端に多すぎるという会社ばかりではありませんが、普段は残業がそれほど多くない会社でも、時期によっては多くの残業が発生します。
システムトラブルが起こった際に駆けつけなければならず予定の変更が余儀なくされるため、まったく残業をしたくない・自分の時間を大切にしたいという方には向いていないと言えます。
最近は残業時間に関して目が厳しくなっているため、ある程度抑制できるような仕組みを作っている会社もありますが、業界的にも残業が全く発生しないということは難しいので、絶対残業をしたくない人には厳しいです。
IT業界はつらいばかりではない
IT業界では、業界の仕組みによって、長時間労働や薄給という問題が発生してしまうことがあり、企業によって待遇が大きく異なってしまいます。
しかし、IT業界すべてが避けたい業種なわけではなく、これからの成長を期待していける仕事です。
勉強が苦手ではない方や好奇心旺盛な方にとっては、日々新しい技術が生まれ、それに関わっていくIT業界はメリットも十分に存在している業界です。
自分がIT業界に向いているかどうかを振り返り、どのような職種でどのように関わっていくのかを検討することで、新たな道としてIT業界でスキルアップをしていくことができるでしょう。