下請け企業に就職したけど仕事や給与に不満があって元請けをしている企業に転職したい、元請けの仕事の方に興味があり転職したいと考えたことはありませんか。
今回はそもそも元請けと下請けとはどのような意味で、どのような違いがあるのか。
またその関係性やメリット・デメリットなどを紹介していきます。
下請け企業で転職を考えている人以外でも転職を考えているなら、参考のためにもぜひ読んでみてください!
元請けと下請けの違い
2011年、東京電力福島第1原発が事故を起こし、その処理作業にたずさわる作業員の労働条件が劣悪なことが問題になりました。
劣悪になった大きな要因は電力会社が作業を外注し、元請けになった企業は下請け企業に委託し、さらに下請け企業が孫請け企業に委託する。この流れを何度も繰り返していたため作業員に支払われる賃金が非常に少なくなっていたのです。
こういったニュースもあるので下請けは元請けに搾取されているというイメージを抱くかも知れませんが、実際はどうなのでしょうか?
それぞれの意味
「元請け」と「下請け」にどのような違いがあるのか、まずは言葉の意味から確認してみましょう。
元請けとは
発注者から直接仕事を請け負うことを意味します。
関連する言葉として元請けをした業者は「元請業者」、元請けをした人は「元請負人」と呼ばれます。
また、それぞれ単に「元請け」と呼ばれることも多いです。
下請けとは
元請業者あるいは元請負人の引き受けた仕事の全部または一部を、さらに請け負うことを意味します。
関連する言葉として下請けをする業者を「下請業者」、下請をする人を「下請負人」と呼びます。
どちらも単に「下請」と呼ばれることも多いです。
元請と下請の違う点
元請けと下請けの違いを一言でいえば仕事の依頼主の違いです。
発注者から直接仕事を請け負うのが元請けで、元請けが請け負った仕事の全部あるいは一部を委託し、それを請け負うのが下請けです。
例1)仕事の一部を委託する場合
ある学校が卒業アルバムの制作を印刷会社Aに依頼します。
しかしA社の規模では納期までに間に合わないため同じ印刷会社のB社に委託します。
例2)仕事を全部委託する場合
洗濯機が故障したので長期保証を使用するために購入店に連絡しました。
ところが修理に来たのは洗濯機メーカーの作業員です。
これは購入店に修理する技術と部品が無いためメーカーに修理を委託し、長期保証適用分の費用を購入店が支払うという方法です。
この2つの例が全てではないですが納期に間に合わない、人手が足りない、技術や資材が無いなどの理由で下請けが必要になるのです。
例2の仕事を全部委託するについては心当たりがある方が多いのではないでしょうか? 持続化給付金の再委託問題で、電通がパソナやトランスコスモスに外注していた事件です。
しかしこの事件、厳密に言うとパソナやトランスコスモスは電通の下請けとは言えません。
どうして言えないのでしょうか。
下請けの法的定義
実は「下請代金支払遅延等防止法」により「下請け」とはどのようなものかが定められているのです。
- 資本金の額か出資の総額が3億円以下の法人か個人で、親事業者から製造委託などを受けている
- 資本金の額か出資の総額が1000万円以下の法人か個人で、親事業者から製造委託などを受けている
- 資本金の額か出資の総額が5000万円以下の法人か個人で、親事業者から情報成果物作成委託か役務提供委託を受けている
- 資本金の額か出資の総額が1000万円以下の法人か個人で、親事業者から情報成果物作成委託か役務提供委託を受けている
参照サイト:公正取引委員会「下請代金支払遅延等防止法」より(最終確認:2020年9月2日)
パソナの資本金は50億円、トランスコスモスの資本金は290億6,596万円なので「下請け」の条件に当てはまりません。そのため電通はこの2社を「下請け」にしたのではなく、この2社に「外注」したのです。
「外注」は特に法的な定めはありません、そのため「下請け」も外注に含まれます。
参照サイト:パソナグループ「会社概要」より(最終確認:2020年9月2日)
トランスコスモス「会社情報」より(最終確認:2020年9月2日)
元請けと下請けの仕事内容
元請けと下請けでは仕事内容にどのような違いがあるのでしょうか。
元請けの仕事内容
営業中心であることが多いです。依頼主から仕事を受け、下請けに外注することになります。
下請けの仕事内容
営業よりも製造・作業が中心となることが多いです。
決まった元請けからの依頼のみで仕事をしている場合が多く、そのため元請けの経営状態が悪くなると下請けも大きなダメージを受けます。
元請けの人手が足りなくて下請けに外注を出しているようなイメージを抱きがちですが、実は外注に出す前提で営業に力を入れている場合が多くあります。
元請け・下請けの仕組みが使われている業界
元請けと下請けの仕事内容の違いも分ったところで、この仕組を頻繁に使う業界がどこかも確認しておきましょう。
建設業
建設業界では大手建設会社が元請けの頂点にいて、その下に何層にもわたって中小の建設会社が下請けを繰り返す構造になっています。
IT業界
建設業界に比べると新しい産業のIT業界ですが、実は建設業界と同じく多重下請け構造になっています。
元請け・下請けの仕組が多く見られるのはこの2つの業界です。
この多重構造により下に行けば行くほどしわ寄せが来るため、改善が求められています。
元請けと下請けの大きな違いは依頼主です。
元請けは依頼主から直接依頼を受けますが、下請けは元請けから外注されます。
また下請けとは「下請代金支払遅延等防止法」により定められた存在で、それに該当しなければ下請けとはいえず外注先と呼ばれます。
それぞれのメリット・デメリット
建設業界やIT業界での多重下請けの問題から、下請けのほうが元請けよりデメリットが多く元請けはメリットが多いような印象を受けます。
実際はどうなのかそれぞれのメリットとデメリットを確認しましょう。
元請けのメリットとデメリット
元請けの代表的なメリットを紹介します。
メリット1)依頼者への請求価格を自由に決められる
もちろん依頼者が納得しなければ契約は成立しないのですが、下請けが受け取る代金は依頼主と元請けが決めた金額より少なくなるのです。
そのため依頼者と請求価格を決められるのは元請けの特権と言えます。
今度は元請けのデメリットを確認します。
デメリット1)責任の範囲が広い
自社だけでなく、下請業者の仕事に対しても責任が発生してしまいます。
例えばメリットである請求価格にしてもあまりにも安い料金で引き受けてしまうと下請けに支払える金額も少なくなり、下請けが苦しくなってしまいます。
元請けのメリットは請求価格を自由に決められると言うことですが、裏を返せば下請けに支払う賃金にも影響してくるのでデメリットの責任の範囲が広いということにも繋がります。
下請けのメリットとデメリット
こんどは下請けのメリット3つを確認します。
メリット1)営業に要する労力と費用を抑えることができる
仕事を自分たちだけで受注するためには直接的な営業活動や広告費などが必要になりますが、下請けは決まった元請けと取引をしていることが多いので、元請けが仕事を問題なく外注し続けてくれれば営業費用を抑えることができます。
メリット2)一定の業務量を確保することができる
有名な企業などに仕事の依頼が殺到し、自社だけでは安定した業務量を確保することが困難ですが、下請けになることで一定の業務量を確保することが可能です。
メリット3)福利厚生が整っている場合が多い
元請けの会社に寄せて福利厚生や給与体系なども作られていることが多いので、小さな会社であっても福利厚生が整っている場合が多いです。
下請けは元請けほど営業に労力や費用をかける必要はなく、元請けが安定している限り一定の業務量を確保しやすいです。
また、小さい企業でも福利厚生が整っている場合が多いのは従業員にとっては大きなメリットと言えます。
それでは次ぎに下請けのデメリット3つを確認しましょう。
デメリット1)常に価格競争を強いられてしまう
仕事を貰う立場にある下請けは元請けの言い値で請け負わなければならないことが多いです。
元請けは利益を少しでも多く得るために、より安い価格で外注ができる業者を求める傾向にあります。
デメリット2)出世しづらい
大きな仕事を任せて貰えることが元請けに比べて少なく、そのため出世をするチャンスもあまりありません。
デメリット3)給与に元請けと下請けで差がある
元請けの会社と比べて給与が少ないことがほとんどで、年齢が上がるにつれてどんどん差が広がる傾向にあります。
下請けのデメリットは下請けという立場に起因するものが多いです。
元請けと下請けのメリット・デメリットを確認してきましたが、それぞれの立場によるメリットとデメリットがあるので一概にどちらが良いとは言えません。
日本の下請け業者を取り巻く状況
元請けと下請けのメリット・デメリットを確認してきたところで、今度は下請け業者を取り巻く状況を確認しましょう。
現在、下請け先が日本の町工場からアジア諸国の工場へと移行する傾向があります。
どうして海外への移行が進んでいるのでしょうか?
移行が進む理由
日本は物価が高く、そのために人件費も高いです。それに対しアジア諸国の人件費や物価は安く、元請け会社は費用を削減することができます。
つまりコスト削減のためにアジア諸国への移行が進んでいるのです。
元請けの多くが下請けをアジア諸国に移行してしまうと、日本の下請け企業は立ち行かなくなってしまいます。
元請け・下請けどちらで働く?
元請けと下請けのメリット・デメリットを確認し、転職するならどちらが良いか悩んでいるのではないでしょうか? ここでは元請けで働くのに向いている人と下請けで働くのに向いている人について確認します。
元請けで働くのに向いている人
元請けに向いている人は2つのタイプが考えられます。
営業がしたい人
元請けの仕事は営業中心の場合が多いので、自分の対人スキルを磨きたいという人に向いています。
出世したい、大きな仕事がしたいという人
下請けだとどうしても大きな仕事が回ってこないことが多いので、そういった仕事に携わりたいという人や出世したいという人は、元請けで働くほうが向いている可能性が高いです。
元請けに向いているのは大きな仕事をして出世をしたい人、そして営業をしたい人と言えます。
下請けで働くのに向いている人
下請けに向いている人も2つのタイプが考えられます。
作業系の仕事が向いている人
いろいろな人とコミュニケーションを取りながら営業をするよりも地道に作業する方が性に合っているという人は、どちらかというと下請けのほうが向いている可能性が高いです。
出世には興味が無いという人
下請けは元請けに比べると出世の機会は多いとは言えません。
そのため出世には特に関心はなく、眼の前の仕事をこなしたいという人は下請けが向いている可能性が高いです。
地道に作業をしたい人と、出世を目標にしていない人は下請けで働くのが向いている場合が多いです。
元請けと下請けどちらが良いとは一概には言えず、働く方の性格や目標により変わってきます。
どちらが自分に向いているかはそれぞれのメリットとデメリットを比較して検討してみてください。
そもそも下請けから元請けに転職は可能か?
営業をしたい、出世をしたい、そして給与を上げたいなどの理由から元請けの企業に転職を希望している下請けの従業員の方もいるのではないでしょうか。
難易度が高いことは多いのですが、下請けから元請けへの転職は、能力がある人であれば可能です。
下請けから元請けの企業へ転職する際のメリット
元請け会社は下請け会社よりも大きな企業であることが多く、給与アップも期待できますし、出世のチャンスも下請けに比べて多いです。
その反面、経験豊富な人や能力がずば抜けている人が集まっていることがよくあり、入社へのハードルは高いと言えます。
転職のポイント
下請け会社である程度経験を積み、その業界に精通した人材になってから転職したほうが受かりやすいと言えます。
ハードルは高いですが、下請けで経験を積むことで元請けへの転職の可能性はあげられます。
一番大切なのは自分に合った職場であるということ
元請けと下請けについて、その違いやそれぞれのメリット・デメリットなどを確認してきました。
どちらが良いとは簡単に言えませんが、それぞれ特徴があるので自分はどちらをやりたいのか、あるいはどちらに向いているかで判断するのが良いでしょう。
また、すでに下請けで働いていて元請けへの転職を希望している場合は、そもそもハードルが高いので下請けでキャリアをある程度積み、採用の可能性をあげてからチャレンジするのがおすすめです。
元請け下請けに関係なく自分に合わない職場だと長く働くことができない恐れがあるので、合った職場を見つけることが一番大切です。