『働き方改革』により生まれた『ジタハラ』について知っていますか。
このページではすでに職場で問題になっているハラスメントのおさらいから、ジタハラとは何かの解説と原因の究明、さらに裁判の判例などを参考にして対策を考えていきます。
企業側の対策だけではなく個人での対策方法もまとめたので、ジタハラに悩んでいる方はもちろん経営者の方もチェックしておきましょう。
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ハラスメントとは。主なハラスメントの種類について
現在、企業では様々なハラスメントが問題となっています。
その中で最近話題となっているのが『ジタハラ』です。
今回はこの『ジタハラ』がどうして生まれたのか、問題点や対策について実例をあげながら考えていきます。
まず、ジタハラも含まれる「ハラスメント」とは何かを改めて確認してみましょう。
ハラスメントの定義について
「嫌がらせ」や「いじめ」を意味する言葉で、英語の “Harassment” からきています。
ハラスメントは職場に限らず、飲み会などで上司や先輩にお酒を強要される『アルコールハラスメント(アルハラ)』や学校で教師が生徒や児童に対して行う『スクールハラスメント(スクハラ)』、そして非喫煙者が喫煙者より受ける『スモークハラスメント(スモハラ)』など実に様々です。
「コミュニケーションのつもりだった」とか「昔は当たり前だった」という考えは通用せず、あくまで相手が不快に思う行為がハラスメントとなります。
職場で問題になっているハラスメント
職場で問題になっている代表的なハラスメントを振り返ってみましょう。
セクシャルハラスメント(セクハラ)
代表的なハラスメントともいえるもので、大きく2種類に分けられます。
『対価型セクハラ』と呼ばれる、企業や学校内において自身の立場を利用して下位にある者に対し性的言動や性的行動を強要するハラスメント、もう一つは『環境型セクハラ』と呼ばれ、明確な不利益を与えませんが性的な言動を繰り返し相手に不快な思いをさせるハラスメントです。
パワーハラスメント(パワハラ)
厚生労働省の定義によると以下の3つの要素をすべて満たすものが、パワハラとされます。
①優越的な関係に基づいて(優位性を背景に)行われること
②業務の適正な範囲を超えて行われること
③身体的若しくは精神的な苦痛を与えること、又は就業環境を害すること
(引用:厚生労働省パワーハラスメントの定義について)(最終確認2020/04/04)
このように企業内の立場を利用し部下や周囲の人たちに肉体的、あるいは精神的に苦痛や害を与えることが『パワハラ』と呼ばれます。
マタニティハラスメント
男女雇用機会均等法第9条第3項により、女性労働者の妊娠や出産などを理由とした解雇を始めとした不当な行為は禁止されています。
男女雇用機会均等法第9条第3項(抄)
事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、その他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
(抜粋:厚生労働省:職場における妊娠・出産・育児休業・介護休業等に関するハラスメント対策やセクシュアルハラスメント対策は事業主の義務です!!)(最終確認2020/04/04)
男性社員にも育休が必要と考えられ始めましたが、まだまだマタハラは大きな問題となっています。
これらはハラスメントの一部に過ぎず、ハラスメントの恐いところは無自覚で行なわれていることもあるということです。
しかし、どのハラスメントも無自覚であっても意識的であっても許される事でありません。
相手がいることで自分もいる、みんなで社会に関わっていることを忘れてはいけないのです。
そのことを理解したうえで、ジタハラについても確認していきましょう。
急増しているジタハラとは
ジタハラとは『時短ハラスメント』の略称で、長時間労働を削減するための具体的な対策がないのに、上司や管理職が部下、社員に対して労働時間の短縮に関するハラスメント行為をすることです。
例)「定時帰り」「残業禁止の呼びかけ」など
ジタハラは、日本政府が近年推し進める『働き方改革』に伴い、全国各地で発生数が急増しています。
2018年にユーキャンの新語・流行語大賞にノミネートされたのがきっかけで、注目を集めるようになりました。
定時帰りや残業禁止は悪いことなのか?
『時短ハラスメント』という名前から誤解されやすいのですが、このハラスメントは残業をさせないことや定時で帰宅させることを悪いということではありません。
残業がないこと、定時で帰宅するのは当たり前のことで、問題なのは定時内に終わらない業務量を命じることです。
ジタハラの原因
定時で帰宅することや残業禁止という事自体は問題ではないのですが、問題はその人や部署が抱えている業務量となります。
「働き方改革」という言葉だけで考えてしまい、安易に定時帰宅を強制してしまうと結果的にジタハラになってしまう可能性もあるので注意しましょう。
ジタハラが起きる3つの原因
ジタハラ(時短ハラスメント)が起きる原因は大きく3つに分けることができます。
- 原因1:表面的な働き方改革
- 原因2:変わらない業務量
- 原因3:業務量に合わない給与体系
それぞれの内容について詳しく確認していきましょう。
原因1. 表面的な働き方改革
ジタハラが起きてしまう会社の特徴として『働き方改革』に取り組もうとしてはいますが、人材を増やすことはせずに、仕事量はそのままで労働時間の削減のみに力が入れられている場合があります。
例えば今までの体制でギリギリ仕事が回せている状況であるなら、稼働時間を減らしてしまうと作業が終わらなくなることは明白です。
上記のような問題を解消するためには人を増やすことや不要な業務をしないなどが必要ですが、誰から見ても定時で終わる仕事量でないのは従業員からすれば負担が増えただけとなってしまいます。
原因2. 変わらない業務量
仕事量は変わらないのに残業が禁止されるという事態が生じています。
そのために社員は会社で業務をすることができず、仕事を自宅に持ち帰ることとなり無給で働くことも発生する可能性があります。
特に自宅に持ち帰ってしまう場合はタイムカードなどで管理しきれない業務となってしまうため、会社側も直接業務に関係している上司以外は実態を把握しきれずに対応が遅れてしまうことが起きてしまいます。
原因3. 業務量に合わない給与体系
ジタハラにより持ち帰り労働が増加することで記録上は労働時間が減るため、残業代が毎月発生していたらその残業代の支給もなくなります。
しかし、実際の労働時間が変わっていないとしたら業務量と給与が合わないという事態に陥ってしまい、サービス残業の時間が増えてしまうという形になります。
最終的には勤務時間と給与、業務量のバランスが崩れてしまいます。
企業側が利益を優先するためにジタハラが生まれる
3つの原因に共通して言えるのは『働き方改革』で唱えられている「定時帰宅」や「残業無し」といった言葉の意味を、企業が表面のみを捉え時間だけ短くして業務量を減らしていないということです。
企業利益だけでなく労働者の業務状況も配慮してくれればジタハラが起ることはありません。
法律の観点から考える働き方改革とジタハラ
ジタハラ(時短ハラスメント)が生まれた背景に『働き方改革』が大きく関わっていることは明らかです。
では、具体的に働き方改革のどの部分が影響を与えているのでしょうか。
時間外労働の上限規制
大企業は2019年4月から、中小企業では2020年4月から時間外労働の上限規制が導入され、以下のように定められています。
残業時間の原則的な上限は月45時間・年360時間
この時間中に休日労働は含まれず、臨時的な特別の事情があればこの制限を超えることが可能ですが、その場合も限度があります。
臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、時間外労働は年720時間以内に収め、時間外労働時間と休日労働を合わせて月100時間未満で、2~6ヵ月の平均が80時間以内でなければなりません。
さらに原則である月45時間を超えることができるのは6ヵ月までとなっています。
残業時間の上限が理解されず(もしくは悪用され)ジタハラに繋がる
この残業時間の上限規制は業務量には踏み込んでおらず、時間だけを守ろうとした企業がジタハラを行なってしまいます。
悪質な企業はこれを理由にサービス残業をさせることとなり、本末転倒になっているのです。
ジタハラが従業員に与える影響
時短ハラスメントが起る3つの原因を確認しましたが、次にジタハラが引き起こす問題点を考えてみましょう。
ジタハラが社員に悪影響を与えるプロセス
社員がどのような流れでジタハラの悪影響を受けるか確認します。
プロセス1. 過度なプレッシャーを与える
明らかに時間内に終わらない業務量を課せられ、仕事を終えられないことがプレッシャーとなり持ち帰ってしまいます。
また自分は仕事ができないと悲観させたり、プライベートを分けることができず精神的に追い込まれていきます。
プロセス2. 持ち帰り労働の増加
持ち帰って仕事を終えるとその仕事量をこなせると企業側に判断され、さらに仕事量を増やされてしまいます。
悪いのは自分だとだから仕方がないと思うスタッフも出てきます。
プロセス3. 再び時間内に終わらない仕事を課せられる
結果としてノルマをこなせているため、企業側は仕事量の改善をせずに持ち帰りをさせ続けます。
続けることで持ち帰り業務はスタッフにとって当たり前のことになってしまいます。
このように悪循環に陥り企業は残業代を支払わずに利益を得ますが、社員は無給で働かされ続けることになります。
ジタハラで裁判につながった事例
ジタハラは新しいハラスメントですが、すでに裁判になり事例があります。
ホンダカーズ千葉事件
ホンダの子会社『ホンダカーズ千葉』の元店長が部下の残業時間を減らすため、その仕事を肩代わりして長時間の持ち帰り残業を強いられた結果、過労自殺してしまった事件です。
事件の詳細
『ホンダカーズ千葉』の元店長が部下の残業を減らすために持ち帰り残業を行ったり、部下の仕事を引き受けたりするなど長時間の労働を強いられてきた結果、精神疾患を発症し、自殺に至ってしまいました。
千葉労働基準監督署は元店長の自殺が過大な仕事が原因であったことを認めて、自殺を労働災害であると認定。
遺族による民事訴訟で最終的にホンダカーズ千葉も元店長の自殺の原因が課題な業務による心理的、身体的負荷が原因であると認め、和解が成立しています。
また、今回の事案につい弁護士は以下のように発言しています。
「管理監督者とされる人が過重な労働を背負いやすい社会構造になってきており、そのことで極めて悲惨な結果になってしまったことを端的に示している」
引用:店長自殺訴訟が和解 車販売会社、過労認め謝罪 千葉地裁|千葉日報(2018年1月18日)
『働き方改革』の名の下に全く逆の過労問題が起きており政府と企業のしっかりとした対応が望まれます。
ジタハラに対し企業と個人がすべき対策
形だけの時短をすることが返って過労を招き労働者の命を危険にさらしてしまうため、そのため企業と労働者それぞれが早急に対策を行なわなければなりません。
基本的に時短ハラスメントは『働き方改革』の意味を企業側が正しく理解せず、業務量を減らさずに労働時間を削った結果発生しています。
それを是正するためには2つの対策が必要です。
企業側の対策1. 就業時間だけでなく、業務量の見直しを図る
組織単位で業務量を減らすことで社員への負担も減っていきます。
現在行っている業務で無駄な部分はないのか、もっと効率的に作業を進められるツールは導入できないかなど、業務全体を円滑に進められるような体制作りが必要です。
企業側の対策2. 労働力を増やす
業務量を減らすことが難しい場合は単純に労働力を増やすことで一人ひとりの労働力の負担を減らす方法も有効です。
基本的問題があるのは表面上の改革しかしていない企業にありますが。
企業利益は大切ですが、社員の健康やプライベートも考える体質を身につけることが企業側には必要です。
労働者も企業側の改革を待っているだけではいいように摂取されかねません。
自分の身と収入は、自分自身で守らなければならないのです。
労働者側の対策1. 適切な残業代を要求する
雇用側に支払いの義務がある賃金は、しっかりと請求しなければ泣き寝入りを続けることになりますが、残業代を請求することで金銭的なメリットはもちろん、勤務状況の改善に繋がる可能性もあります。
違法な残業代未払い(サービス残業)の例
例1. 早く帰ることを強要するが、代わりに早く出社させ、残業代を未払いで早朝勤務させる
※就業時間前でも拘束される以上給与は発生するので当然違法です。
例2. 事実上自宅で作業しなければ終わらない業務がある
※終業時刻になるとすぐ帰ることを命令され、仕事を持ち帰ることになります。
例3. 平日に会社で出来る時間が限られてしまったので休日出勤の必要があるが、休日手当は支払われない
これらの例のように業務量が変わらないのに残業代を払わない企業は、残業代の支払いを逃れようとしていることがジタハラの原因であることが多いです。
残業代を請求することの重要性
残業代の請求によってある程度ジタハラを防ぐことが可能です。
会社としても残業代があとから請求されるというのは好ましくないため、「しっかりと働いた分は請求する」という姿勢を見せることで抑止力として働きます。
残業代の計算方法
残業代 = 基礎単価 ÷ 平均月間所定労働時間 × 割増率 × 残業時間
対策2. 仕事量の見直しをお願いする
悪意を持って企業の利益を優先しているわけではなく、部下の仕事量を把握していないだけの上司もいます。
そのため現場の状況を適切に伝えて業務量について配慮をしてもらう必要があります。
対策3. 勤務実態記録を残しておく
1日でどれだけの仕事をこなし、他にどれだけの仕事が残っているのかなどの勤務の実態を残しておくと、上司に仕事量の調整を相談する際に役立ちます。
会社のシステムの関係上、退社時間が定時になってしまうという場合は実際の退社時間や業務が終わった時間がわかるような証拠を日常的に保管する癖をつけることをおすすめします。
対策4. 上司を通じて会社側にノルマや納期などの見直しを要望する
ノルマが厳しすぎたり納期が短すぎたりするのもジタハラの要因になります。
上司を通じて会社側にノルマや納期の見直しをしてもらうことも重要です。
勇気を持って職場の働き方改革を
企業側と個人のジタハラ対策を確認してきましたが、個人の対策は所属している企業によってはかなり勇気が必要になります。
しかし声を上げなければいずれ心身共に限界が来て、判例で紹介したような悲惨な結果になる恐れがあります。
そうなる前に声を上げ、それで耳を傾けてくれない企業なら転職を検討しましょう。
ジタハラにならない働き方改革
ジタハラ(時短ハラスメント)とは何か、実例や対応策を確認してきました。
皮肉なことにこのハラスメントは働き方改革によって生まれ、本来の目的とは逆の効果を社会の一部に与えています。
問題なのは状況を生み出している企業側ですが労働者も泣き寝入りしているだけでは状況は変わりませんし、自分が持たなくなってしまいます。
状況を変えるためには行動を起こさなければなりません。
もし、今苦しいなら自分を助けるために勇気を持って声を上げてください。
それで待遇が悪くなるなら転職を考えましょう。
負担が増えてしまうことで体を壊すかもしれませんので、より働き方に対して理解のある企業に転職をするということは視野に入れてもいいでしょう。
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