「お金持ち」というのは、いつの時代も魅力的に感じる言葉です。

それは、私たちが「お金持ち」はきっと幸せだろうという先入観を持っているからだといえます。

しかし実際、収入が幸福に与える影響はどれほどのものなのでしょうか。

ここでは年収と幸福度の関係と、幸せを掴むコツについてお伝えしていきます。

年収と幸福度の調査

年収と幸福度の関係については、アメリカの大学で行われた有名な研究があります。その結果と日本政府の調査を照らし合わせて、関係の真相を探っていきましょう。

アメリカの調査

──収入と幸福度は比例するが、年収7万5000ドル(約670万円)でピークに達する。

これは米プリンストン大学の心理学者ダニエル・カーネマン教授らが、アメリカの世論調査会社ギャラップの行った「健康と福祉に関する調査」を分析して導き出した結果です。

驚くべきは、7万5000ドルという数字が一世帯あたりの平均年収である7万1500ドル(約640万円)をやや上回る程度の額に過ぎないことです。

「人は私たちが考えているより意外と無欲なのか?」というと、実はそういうわけでもありません。

この結果の理由には「人は幸せに慣れてしまう」という特性があることが考えられます。どんなにおいしいデザートも、残念なことに「一口目」を頂点にして感動とおいしさは段々と薄れていってしまうのです。

日本の調査

アメリカと比較して、日本の場合はどうでしょうか。

厚生労働省が発表した「日本の平均世帯年収」と、内閣府が実施した「世帯年収と幸福感」についての調査結果を比較してみましょう。

1世帯当たりの平均所得金額の推移
2011年2012年2013年2014年2015年
548.2万円537.2万円528.9万円541.9万円545.4万円


平成 29年 国民生活基礎調査の概況 年次別の所得の状況 

人々の幸福感と所得について 平成26年2月14日内閣府

 

表から、日本の平均年収は約540万円程度であるといえます。

この数字に当たる400~660万円未満のエリア向かうに連れて幸福度は急上昇を続けますが、それ以降は一気に横ばいに変わります。日本においても、この点はアメリカの調査結果と合致しているといえるでしょう。

加えて日本の場合は、平均年収の到達だけでなく「年収1000万への到達」も幸福度の上がるポイントになっています。しかしやはりここでも、1000万円に到達以降はじわじわとグラフは減少傾向に向かいます。

お金で得られる「幸せ」とは

では、そもそも平均年収540万程度から得られる幸せと、1000万から得られる幸せとは何でしょうか。それぞれ説明していきましょう。

平均年収への到達で得られるのは、倹約する生活から解放されていくという幸福感 です。

これは一定の生活水準が保障され、自由に使えるお金も手元に残る状態といえます。残金と睨めっこせずに済む生活は、お金の余裕とともに心の余裕も生んでいきます。

対して年収1000万の到達は、生活のランクが上がるという幸福感です。

多くの人は「年収1000万円」という言葉に、それだけ稼げた達成感と一種のステータスを感じることでしょう。婚活する女性の中にも、「年収1000万以上の人が良い」という基準を設ける人がいるのは良く聞く話です。一般的な生活からワンランク上の生活にシフトすることは、誰もが幸せを感じる瞬間になり得ます。

お金で得られる「幸せ」の限界

しかし先程述べた通り、残念ながら人は幸せに慣れてしまう生き物です。

540万程度を稼ぐ人は、段々とその安定した生活に慣れていき、無意識に更なる贅沢を求めていってしまいます。上を目指すのは決して悪いことではありませんが、「お金」の場合はそう上手くいかず、余裕であったはずの生活が気づけば苦しいものへと変わっていきます。

これが1000万円の場合となると、その欲深さはより顕著になり、さらに高所得者の間で起こる贅沢競争に走って、自分で自分の首を締めていってしまう人もいます。また月収900万円を境に税金の課税率が10%に変動するため、税金で徴収される割合が増えるという現実を突きつけられます。このことも、幸福度を下げる一つの要因であるといえるでしょう。

では、「幸せ」に麻痺してしまった人は更なる贅沢を得ない限り、幸福を味わうことができないのでしょうか。かたや平均年収に届かない人は「幸せ」を得ることさえできないのでしょうか。

答えは「NO」です。

ここからは麻痺の治療法と、幸せを掴む方法についてご紹介していきます。

幸福度を上げるには

幸福度を上げるには、2つのアプローチ方法があります。1つ目は「不幸を避けること」、2つ目は「幸福度の高い買い物をすること」です。

1.不幸を避ける

アリストテレスは「賢人が目指すべきは、幸福を手に入れることではなく、不幸を避けることだ」と言いました。

幸福度を上げるには、更なる幸福を求めるより不幸を避ける方が効果的です。不幸の根源を断つことで、幸福度の平均値を底上げすることができるからです。

そのために、まずあなた自身の「不幸の材料」を明確にしていきましょう。筆者の体験談をもとに、具体的な不幸の避け方をご紹介します。

生活環境の見直し

  • 都内のおしゃれな街→県内の閑静な住宅街  
  • 6畳未満の窮屈な部屋→6畳以上の余裕ある部屋
  • 交通の便はかなり良いが大混雑→交通の便は今ひとつだがゆるい混雑

私の場合、矢印のうしろに改善した方が心の余裕が生まれ、より幸福を感じるようになりました。

都内の生活はどこに行くにも便利で、食事も休日の行き先にも有り余るほどの選択肢がありました。しかし道は狭くごちゃついていて、雨の日は傘を差したまま走るのはおろか、すれ違う度に傾けないとスムーズに歩けない状態でした。

部屋の広さにおいては、どちらかといえばインドア派の私にとっては窮屈で、決して「リラックスできる空間」とはいえませんでした。

県内の生活に移ってからは、余裕ある部屋は伸び伸びでき、心身ともに安らげる場所になりました。道は広く大きな公園もあり、大袈裟でなく本当に走り出してしまいたくなるほどです。交通の便は都内に比べると劣りますが電車の混雑はなく、代わりに徒歩であらゆる場所に散歩する機会が増えました。

まだこちらの生活になってから日が浅いということもありますが、日々の中で「余裕もあって、毎日充実していているな」とひしひし感じています。

これは筆者の場合の「不幸の引き算」でしたが、 人によって幸福度の基準は様々です。

今の生活を振り返り、不幸を生んでいるものは何か思い浮かべてみてください。不幸とわかっていて我慢し続けることは、間違いなく体に毒です。もちろん生活環境だけでなく、人間関係や仕事も含めて不幸の根源を探り、それらを取り除いていきましょう。

また、先程の「日本の調査」で幸福度が著しく低かった年収200万円未満、200万円~400万円未満に当たる人は、転職で一気に年収を上げやすい層となるため、年収が不幸の要素となっている場合は転職を一つの方法として考えてみるのも良いでしょう。

2.幸福度の高い「買い物」をする

カナダ・ブリティッシュコロンビア大学の心理学者であるエリザベス・ダン准教授は「カネの使い方と幸福度の関係についての研究」を通して、ある5つの原則が幸福度を上げるのに役立つことがわかったと述べています。

1.体験を買う

「物」より「体験」にお金を使うほうが、実は幸福度の高い買い物になります。「物」とは美しい家具や高級時計、「体験」とは旅行やコンサート、特別な食事のことです。

「物」は時間ともに劣化していつかは寿命を迎えますが、「経験」はいつまでも心の中に残り、活かし続けることができます。加えて「物」の場合は、新しい物が発売されるとまた次の物が欲しくなり、欲望は際限なく広がり続けてしまいます。

2.ご褒美にする

幸福というのは、実は「当たり前」の中にたくさん転がっているものです。その「当たり前」を「ご褒美」として捉え直してみましょう。言い換えれば、これは幸せのハードルを下げる行為といえます。

例えば普段カップラーメンばかり食べている人が、久々に誰かの手料理を口にしたらそれは何よりのご馳走になります。とはいえ、幸せを感じるためにカップラーメンばかりを食べましょうという意味ではなく、普段の生活の中で「幸せだな」と感じていることを思い返して、その幸せを噛みしめてほしいのです。

ちなみに私の場合は、前の家には湯船が無かったため、湯船があるという「当たり前」の生活に何よりの幸せを感じています。

3.時間を買う

日本人の場合、毎日の通勤時間に置き換えてみるとわかりやすいでしょう。アメリカの世論調査会社ギャラップの「通勤時間と幸福度の調査」では、通勤時間が長い人ほど幸福度が低くなるという結果が出ています。今住んでいる場所が職場から遠いなら、思い切って近くに引っ越してみるというのも「時間を買う」行為になります。

私自身も、職場に近い場所に住んで「時間を買った」ことで、出社前に掃除や洗濯をする余裕が生まれました。もちろん通勤だけでなく、家事の代行を頼んだり便利な家電を買ったりすることも当てはまります。

4.先に支払ってあとで消費する

予約制のコンサートのチケットなどがその例です。1ヶ月後に開催されるコンサートのチケットを先払いしてしまえば、あとは当日を待つだけとなり、待っている期間は幸福度が高まり続ける時間となります。

当日は代金の支払いが無いため、残されたのはただ楽しむことだけです。さらに予約をした時点で得られる幸福が保障されるため、当日までの浪費を抑えることにもつながります。

5.他人に投資する

自分のためではなく、他人にお金を使うことです。手軽にできるようで、お金に余裕のない人にはハードルの高い行為かもしれません。しかし大層なプレゼントでなくとも、究極はコーヒー1杯でもいいのです。

金額の大きさに関係なく、「誰かの喜び」は「自分の幸せ」を生むことにつながります。それが大切な人の喜びならば、何にも代えがたい幸せになるはずです。ZOZOの元CEOである前澤さんも、一般人には到底できない10万円配りなんてこともしていましたね。

幸福度を上げる方法は、「さらに上を求める」以外にこんなにも方法があります。これら全てを実行することは難しいですが、どれか1つでも、まずは試してみてはいかがでしょうか。

最後に、とても身近に実践できることを1つだけご紹介します。

セットでブラックコーヒーを頼む

冒頭で「どんなにおいしいデザートも、残念なことに一口目を頂点にして感動とおいしさは段々と薄れていってしまう」とお伝えしました。そんな時はほかのデザートに手を出すのではなく、ブラックコーヒーを飲んでリセットしましょう。

デザートの甘さに舌が麻痺したときには、ブラックコーヒーなどの苦味で口直しをするはずです。リセットした後には、また最初のようにデザートのおいしさを感じることができます。

「幸せ」の麻痺も、食事と同じように口直しを挟むことで何度でもリセットできるのです。

幸せは自分でつくれる!

タイトルにある「年収500万と1000万どっちが幸せ?」の答えは、その人の行動次第ということになります。収入と幸福度はある程度まで関係しますが、 決定打になるのは不幸を取り除き、幸せな買い物ができるかどうかです。

あなたの幸福のハードルは上がりすぎていないか、お金の使い方は乱暴になっていないか、 この記事を参考にあなたなりの幸福を研究してみてください。

もしあなたが幸せになるきっかけを作れたら、私自身も幸せです。