建設業界は安定した業界であり常に新たな人材を求めている

建設業界は2018年度の時点で市場規模56兆円を超えており、前年度比の成長率は1.2%増。この数字には東京オリンピックに伴う大型再開発の影響も反映されています。

オリンピックに伴う大量受注が終わっても、自然災害の多い日本ではその復興に伴う建設ニーズや、また、高度経済成長期に建てられた数多くの建築物の建て替えニーズに事欠くことなく、安定した業種であることは確かです。

それにも関わらず、建設業界の就業者数は2017年に、20年前のピーク時の7割にあたる498万人にまで減少しています。

これは、過酷な労働環境が連想されるという理由で建設業に就職する若者が減った一方で、高齢を理由に離職していく方は減ることがないからです。

転職を考えるときに、建設業を「体力のない自分には縁のない仕事」と初めから選択肢に入れていない方も多いでしょう。しかし、建設業界にはさまざまな仕事があり、決して力仕事ばかりではありません。

転職先としての建設業界について検討する前に、まず、この業界にはどんな仕事があるのか見ていきましょう。

建設業界にはどんな仕事がある?

建設業法では「土木一式工事」と「建築一式工事」、そして「27種類の専門工事」のことを「建設業」として定義しています。

一式工事とは、たとえば「ビルを作る」「橋を作る」というように、大きな単位で仕事を請け負い、設計や施工管理、下請け業者の監督などを行うことをいい、ゼネコンなど元請け会社がこれを行っています。

「土木一式工事」は道路・橋・鉄道・港湾・ダムなどインフラの建設、「建築一式工事」は建物の建設のことです。

一方、専門工事とは現場で実際に工事を施工することで、次の27業種がこれにあたります。

大工工事業

左官工事業

とび・土工工事業

石工事業

屋根工事業

電気工事業

管工事業

タイル・レンガ工事業

鋼構造物工事業

鉄筋工事業

舗装工事業

しゅんせつ工事業

板金工事業

ガラス工事業

塗装工事業

防水工事業

内装仕上工事業

機械器具設置工事業

熱絶縁工事業

電気通信工事業

造園工事業

さく井工事業

建具工事業

水道施設工事業

消防施設工事業

清掃施設工事業

解体工事業

建設業界に転職先するならどの業種を狙うか?

キャリアアップを目指して建設業界に転職するなら、ゼネコンなど元請け会社を狙うことになるでしょう。

そして、それらの会社で積極的に求めているのは、施工管理部門と設計部門の人材です。それぞれ、どのような仕事をしているのか、簡単にまとめてみました。

施工管理部門の仕事

建築

さまざまな建築物の設計・施工管理・竣工後のメンテナンスまで、全般の施工管理を行います。

土木

インフラ整備に関する工事を管理・調整します。

設備

電気やガス配管、給排水、空調など必要な設備を選定・施工管理します。

設計部門の仕事

意匠設計

建物のデザインを行います。企画から工程管理、建物に関わるすべてが担当範囲となります。

構造設計

災害に対応できる安全な建物となるよう、その構造の設計を行います。

設備設計

電気やガス配管、給排水、空調など必要な設備の建物内インフラを選定・設計します。

建設業界といっても、ゼネコンから下請けの施工業者までさまざまな職種があり、さらに、ゼネコンでも施工管理部門や設計部門と分かれ、その中でさらに分野が分かれていることが理解できます。

これまで建設業界に関心を持ったことのない方ほど、どうしても「建設業=キツイ・汚い・危険の3K職業」といった色眼鏡で見てしまいがちですが、実際にはこのように多種多様な仕事内容があり、肉体労働ではなく頭脳労働の部分が仕事のほとんどを占める職種もあるのです。

建設業界の代表的な職種における平均年収は?

では、建設業界に務めた場合、その年収はどれくらいになるのかについて調べてみましょう。

まず、大手ゼネコンといわれる会社でいうと社員の平均年収は1,000万円ほどになります。2020年初頭に発表された平均年収ランキングでは上位50社に大手ゼネコン4社がランクインしており、その平均年収は1,000万円~1,100万円となっています。

大手ゼネコンの正社員というとエリートのイメージがありますが、この平均年収はそのイメージを裏付けるものといっていいでしょう。それ以外の一般的な建築会社での年収はどうでしょうか? 

建物工事や土木工事(道路・橋・トンネルなど)の施工管理や設計、それに伴う測量などの仕事については、平均年収が404万円となっています。

この平均年収を算出した元になった職種の中には、資格を必要とするものと、しないものが含まれていますが、当然、資格が必要なもののほうが給料は高くなります。

建設業界の中でも、プラントを手掛ける会社は少し平均年収が上がり、421万円となっています。

プラントとは、石油やガスなどのエネルギーや、石油製品、鉄鋼材料など、資源・素材を生産する施設のことで、多くの場合大規模な建築物となります。

また、通常の建築物と違い、危険物取扱者や管工事施工管理技士といった資格が必要になることも多いでしょう。

比較的、年収が高い施工管理と設計に絞って言うと、建築・土木の施工管理技士の平均年収は462万円、設備の施工管理技士の平均年収は439万円となります。

一方、設計のほうは、意匠設計や563万円、構造設計や571万円、設備設計が548万円となります。

これを見ると、施工管理よりも設計のほうが100万円ほど平均年収は高く、また、設計の中では構造設計が最も年収が高いことが分かります。

当然のことですが、天災で壊れない建物を作ることは何より最優先されるということです。

建設業界でのキャリアアップに有益な3つの資格を解説

建築業界において年収アップに直結する資格として代表的なものに、技術士(建設部門)、一級土木施工管理技士があり、そのほか、一級建築士、一級建築施工管理技士、一級管工事施工管理技士、一級電気工事施工管理技士などがあります。

これらの資格があると年収アップに直結するばかりでなく、キャリアアップとしての転職にも大変有利です。

技術士(建設部門)

技術士とは、専門的な応用能力を持つ技術者であると認められた方に与えられる国家資格で、21部門あるうち建設部門の受験者が最も多くなっています(以下、「技術士」は建設部門のものを指します)。

技術士の資格がなければやってはならない業務というのは特にありませんが、技術士は対外的に深く信頼されている資格であり、建設コンサルタント会社や建設会社では技術士がいることにより元請けが可能となります。当然、社内でも立場は優遇され、資格手当や合格祝い金が出る会社もあるほか、管理職への最短ルートとなります。

それだけ優遇されるのは、会社に技術士がいることによる経済効果が大きいからで、特に技術士がいることで公共工事の評価と受注金額が上がるのは会社にとって大きなメリットです。つまり、技術士がいるだけで会社自体の評価まで上がるのです。

技術士の年収

会社の規模や地域、本人の経験・年齢にもよりますが、500万円~700万円の範囲が多いようです。場合によっては1,000万円に達するケースもあります。

技術士になるには

一次試験には受験資格はなく誰でも受験できます。試験内容は大学のエンジニアリング過程(工学・農学・理学など)程度ですが、大卒でなくても受験可能です。

これに合格すると「修習技術者」となり、二次試験の受験資格を満たすために実務経験を積んでいきます。なお、大学のエンジニアリング過程を修了した方は、第一次試験を受けずに「修習技術者」となれます。

実務経験には3つの経路があります。

  1. 「技術士補」として登録した上で、指導技術士の下で4年を超える実務経験を積む
  2. 職務上の監督者の下で4年を超える実務経験を積む
  3. 7年を超える実務経験を積む(修習技術者となる以前の経験も参入可能)

規定を満たすだけの実務経験を積んだ後、二次試験を受けて合格すると晴れて技術士の有資格者となり登録を経て正式に技術士となれます。

一級施工管理技士

施工管理技士は、施工計画書の作成、工程管理・品質管理・安全管理などの指導監督、第三者との調整やなどを行う国家資格のことで、次の7種目があります。

また、それぞれに一級と二級があり、担当できる工事の種類や就ける立場などが異なります。

  • 建築施工管理技士
  • 土木施工管理技士
  • 電気工事施工管理技士
  • 管工事施工管理技士
  • 造園施工管理技士
  • 建設機械施工技士
  • 電気通信工事施工管理技士

建設業の許可を受けている会社は営業所ごとに「専任の技術者」を配置しなければならず、施工管理技士はその「専任の技術者」になれるため、建設会社にとっては重要な人材です。

また、施工管理技士は「主任技術者」になれ、さらに一級施工管理技師はそれに加えて「監理技術者」にもなれます。

一級施工管理技士の年収

会社の規模や地域、本人の経験・年齢にもよりますが、一級建築施工管理技士でいうと、500万円~700万円の範囲が多いようです。場合によっては1,000万円に達するケースもあります。

一級施工管理技士になるには

一級建築施工管理技術士の場合、年に1回行われる試験に合格した上で所定の申請を行うとなれます。この資格は更新の必要はありませんが、監理技術者として働く場合は定期講習が必要です。

試験には学科試験と実地試験があり、受験資格として学歴や実務経験、ほかの建築系資格の有無などについて細かく定められています。

建築士

建築士とは、建築物の設計や工事監理などを行える国家資格のことで、この資格がなければ、たとえ自分の家であったとしても基本的にはその設計を行うことはできません。

そのような制限があるのは、建築士が建物の安全を守るという公共的な役割を担っているからです。

建築士の資格には一級建築士、二級建築士、木造建築士の3種類があり、設計・工事監理できる建築物の種類が異なります。

簡単に言えば、木造建築物は一定の大きさまでの木造建築物を、二級建築士はそれ以上の木造建築物と一定の大きさまでのコンクリート造建造物と公共建築物を、一級建築士はそれ以上の大きさを持つすべての建築物を扱うことができます。

そのほか、一級建築士資格を持つことで資格取得が可能となる、構造設計一級建築士と設備設計一級建築士という資格があります。

それぞれ、その資格がないと行えない業務がある専門性の高い資格です。

また、いずれかの建築士資格を持つことで資格取得が可能となる管理建築士という資格もあります。これは、建築士事務所を管理するために必要な資格です。

建築士の年収

会社の規模や地域、本人の経験・年齢にもよりますが、一級建築士で400万円~700万円、二級建築士で300万円~600万円、木造建築士で300万円~400万円の範囲が多いようです。

建築士になるには

年1回の試験に合格する必要があり、学科試験に合格した後、さらに設計製図の試験に合格しなければなりません。

受験資格を満たすには、木造建築士と二級建築士では、高校や大学を卒業後に所定年数の実務経験を積む必要があります。

ただし、大学・短大の建築学科を卒業すると実務経験は不要となり、専門学校の建築学科でも実務経験不要となる場合があります。

一方、一級建築士の受験資格を満たすには、大学・短大・専門学校の建築学科か土木学科を卒業後、所定年数の実務経験を積む必要があります。

あるいは二級建築士になった後、実務経験が4年以上あることで受験資格を満たします。

以上のことから、大学の建築学科で建築の基礎については学んだけれど実務経験がないという方で、建築業界への転職を考えている方は、まず実務経験なしで受験できる二級建築士の資格を取得し、その資格を持って転職に臨むといいでしょう。

そして、転職先で二級建築士としての実務経験を積んでから一級建築士にチャレンジして、ステップアップを図りましょう。

資格がなくても建設業界への転職は可能

技術士、施工管理技士、建築士は、建築業界でキャリアを伸ばしていくためにぜひ取得したい資格です。しかし、この種の分野の学習に困難を感じる方がいるのも事実でしょう。

そのような場合、建設業界未経験の方や異業種からの転職であっても中途採用されることの多い、職種を検討してみてはどうでしょうか。

たとえば、建設会社やハウスメーカーの営業職や総合職がそれにあたります。

営業職や総合職においては、ほかの業界で培った経験を生かせる可能性があるので、転職にあたって自身の経験をうまくアピールすると、有利な条件で採用される可能性が高まります。

また、現場での施工管理を有資格者の下で行う仕事なども人材も求められており、異業種からの未経験者であっても中途採用されやすいといえます。

そこで実務経験を積みながら国家資格の受験資格を整えつつ、資格取得へ臨んでみてはどうでしょうか。