セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメント、そしてモラルハラスメントなど、このところ「ハラスメント」という言葉を頻繁に耳にします。

その中で最近注目されているのが『カスタマーハラスメント』です。

今回は『カスタマーハラスメント』がどのようなものかを知ったうえで、考えられる対策案についてまとめみました。

ハラスメントとは

ハラスメント(Harassment)とは様々な状況での「嫌がらせ」と「いじめ」を意味します。

誰かに対する発言や行動などが「本人の意図とは関係なく」相手の尊厳を傷付けたり、不利益を与えたり、脅威を与えたり、不快にさせることなどを指すのです。

「本人の意図とは関係なく」というところがハラスメントでは重要で、「コミュニケーションのつもりだった」とか「昔は当たり前だった」という言い訳は通用しません。

代表的なハラスメント

現在は様々なハラスメントが確認されていますが、どのようなものがあるのでしょうか。

セクシャルハラスメント

「セクハラ」と呼ばれ、初期から問題にされているハラスメントです。

企業や学校内において自身の立場を利用し、下位にある者に対し性的言動や性的行動を強要する「対価型セクハラ」と、明快な不利益を与えずとも性的な言動を繰り返し相手に不快な思いをさせる「環境型セクハラ」に大きく分けられます。

パワーハラスメント

職務上の地位や人間関係等の職場内における優位性を利用して業務の範囲を逸脱し、精神や身体に苦痛を与える、または職場の環境を悪くする行為です。

お酒が苦手なのに飲み会が強制参加になる、飲酒を強要されるなど。

マタニティハラスメント

妊娠、出産、そして育児をきっかけに始まる嫌がらせや解雇、雇い止めなどの不当な扱いのことです。

例えば、妊娠を機に本人の意思なく大きなプロジェクトから外される、体調不良で休みがちになったことで周囲から冷たくされるなどです。

モラルハラスメント

人格や尊厳を傷つけたり、肉体的、精神的に傷を負わせて、職場などを辞めなければならない状況に追い込む行為を意味します。

例えば何かを発現するたびに同僚たちだけで目を合わせてクスクスと笑う、無視をされるなどがあたります。

ジェンダー・ハラスメント

女性か男性かというだけで、性格や能力を決めつける行為です。

ジェンダー・ハラスメントは広義のセクハラとされます。

女性だから荷物運びの多いこの業務は向かない、男性だから女性顧客の多い販売は向かないといったほか、女性らしさと男性らしさについて言われることも当てはまります。

セカンドハラスメント

セクハラによる被害者がその事実を訴えることで、逆に会社側から圧力などの二次的被害を受けることを意味します。

例えばセクハラを伝えたことで、上司や同僚たちから嫌味を言われ続けたり、嫌がらせを受けたり、会社側から不当な人事異動を受けるなどです。

『カスタマーハラスメント』とは何か?

接客業をしている方は顧客からクレームを受けた経験があることしょう。

クレーム対応は誰しもが嫌なものです。自分に責任があるときはまだしも、自分は悪くないのに言われたり、自分の権限ではどうにもならないことを言われたりしても困ってしまいます。

ところが研修などでは「クレームを仰ってくれるお客様は大切」と教えるのです。

実際にクレームがサービスの改善などに繋がることはあるので企業からしてもクレームをもらうことに一定の価値があるというのは事実です。

しかし、行き過ぎたクレームはカスタマーハラスメントにあたるのではないかと最近では注目されています。

今回取り上げる「カスタマーハラスメント」はこの「クレーム」と深く関わっています。

クレームとは

辞書を引くと以下のような意味が書かれています。

クレーム【claim】

①売買契約で、違約があった場合、売手に損害賠償を請求すること。

②異議。苦情。文句。「―をつける」

『広辞苑 第七版』より引用

現在の日本では②の意味である「苦情」の意味も含まれるのですが、英語では「complain」を使うことが多く、「claim」は①の賠償請求」という意味が強いです。

消費者から「苦情」が来るということは企業の商品やサービスに不満がある、つまり改善点が存在すると考えられます。

多くの消費者は企業の商品やサービスに不満があっても何も言わない「サイレントマジョリティ」であり、クレームを言わない代わりに次回から利用しなくなります。

そのためクレームを言ってくれる顧客は貴重な存在と言えるのです。

では「カスタマーハラスメント」とはどのような行為で一般の「クレーム」とは何が違うのでしょうか。

カスタマーハラスメントとは

クレームを言ってくれる顧客は貴重な存在ですが、そのクレームも完全な言いがかりだったり、明らかに不当だったりする場合があります。

こういった顧客による過剰で悪質なクレームや迷惑行為のことを「カスタマーハラスメント」と呼びます。クレーム」が正当な顧客の意見なのに対し、「カスタマーハラスメント」は不当な顧客の要求です。

カスタマーハラスメント4つの具体例

カスタマーハラスメントの代表的な例をあげます。

例1. 態度が悪いのでクビにしろ

顧客に対して決して失礼な態度を取っていないのに、雰囲気が気に入らない、声が気持ちを逆なでするなど顧客側の意見が通らないからと言って解雇しろといった要求。

例2. 謝罪文書を出せ

接客業では自分たちに問題がない場合でも、顧客に不愉快な思いをさせてしまったときにはお詫びをするのが一般的です。しかし、顧客側がそれでは納得せず、謝罪文を要求。

例3. 謝罪広告を出せ

商品の不具合などがあった場合、製品全体の欠陥でなかったとしても、謝罪広告を出せと要求。また購入して利用しているなかで、顧客によって壊れているのにこちらに非があるとも言える言い方をしてくる。

例4. 長時間の拘束

顧客にお詫びや対応策を提案しても納得してもらえず、長時間拘束されます。

UAゼンセンの調査 によれば、接客において、約74%の方がこのような迷惑行為に遭遇したことがあると答えています。

カスタマーハラスメントに違法性はあるのか?

対応する側にとっては非常に迷惑なカスタマーハラスメントですが、ただ言われっぱなしも辛いところです。

法律に何か規制はないのかというということですが、当然度を超したカスタマーハラスメントは違法性が認められる場合があります。

カスタマーハラスメントが裁判に発展した3つの事例

2013年と2014年に発生した事例で実際に有罪になったケースがあります。

例1. 2013年 略式起訴で30万円の罰金

2013年アパレルショップの店員を無理やり土下座させたとして強要罪に問われ、略式起訴で30万円の罰金

例2. 2014年 懲役1年6ヶ月、執行猶予3年

2014年ファミリーマートの店員に土下座を要求したうえでたばこ6カートン(2万6700円相当)を脅し取ったとして裁判になり、懲役1年6ヶ月、執行猶予3年

例3. 2014年 懲役8ヵ月の実刑判決

2014年にボウリング場の店員に土下座をさせたとして強要罪に問われ、懲役8ヵ月の実刑判決

このように強要による罪はもちろんのこと、長時間の拘束やリピートのクレームなどは業務妨害罪、暴言や威嚇、脅迫は脅迫罪、暴力は威力業務妨害などの罪になる可能性があります。

これらの例からもわかる通り、接客業のスタッフを下手に見るカスタマーハラスメント被害は深刻です。

カスタマーハラスメントによる被害

厚労省は精神障害で労災申請があったケースについて個別に分析し、「顧客や取引先からクレームを受けた」という項目を設けて集計しています。

過去10年で78人が労働者災害補償保険(労災)の対象になっています。

参考サイト:「カスハラ」労災10年で78人、24人が自殺 悪質クレーム対策急務(2019年10月23日)

離職率が高いとされるコールセンターではその理由の1つに「クレーム対応」が上げられます。

冒頭で説明したとおりクレームが悪いわけではないのですが、カスタマーハラスメントになった場合の精神的な負担が多いことは間違いありません。

スタッフを「カスハラ」から守るために、国や企業は早急に対策を進める必要があります。

カスタマーハラスメントの対策・適切な対応(個人レベル)

国や企業の対策を待っていては、現在カスタマーハラスメントを受ける確率の高い方の精神がむしばまれ仕事が続けられなくなる恐れがあります。

そのため自分自身でできる対策や適切な対応を準備しておきましょう。

個人でできるカスタマーハラスメント6つの対策

個人の対応次第ではクレームをカスタマーハラスメントに発展させずに済みます。

対策1. まずは不快感を抱かせたことを謝る

カスタマーハラスメントに発展してしまったクレームは、「謝罪がなかった」「謝ってもらえれば良かった」ということが原因になっている場合が多くあります。

そのため顧客の不満や不安を受け止め謝罪をすることが大切です。

連絡の手間をかけさせてしまったこと、サービスに関して不安をかけてしまったこと、商品に関して不快にさせてしまったことなど顧客を失望させたことについてお詫びします。

そうすることで顧客が自分の意見を聞いてもらえたと感じ、落ち着かせる効果を期待できます。

対策2. 感情的にはならない

顧客が声を荒げたり罵ってきたりすると、対応する側も感情的になりがちです。

しかし対応している側が感情的になってしまうと、顧客はより興奮しヒートアップしていきます。

それを防ぐためにも感情をコントロールし冷静に対応する必要があるのです。相手が怒っていても、同じ感情になることなく冷静に対応しましょう。

対策3. 録音かメモを取る

クレームを受けていると、言った言わないという事になりがちです。

それを避けるために録音をするのがベストです。プライバシーの侵害にならないかと不安かもしれませんが、当事者同士の会話なので第三者が行う盗聴とは異なります。

できることなら顧客に許可を取ったほうがよいでしょう。録音できない場合はしっかりとメモで内容を記録しておきます。

コールセンターでは通話を録音させていただきますとアナウンスが流れるほど、一般的です。不安な時はボイスレコーダーをお守りとして持つようにしてみましょう。

対策4. 反論をしない

クレームを聞いているときに、内容が誤っていたり事実と違っていたりしても相手の言葉を遮り反論してはいけません。

途中で話を遮られると、人は「話を聞いてもらえない」、「言い訳された」と感じ、さらに状況を悪化させてしまいます。顧客が一通り話し終えてからこちらの話をするようにしましょう。

対策5. 顧客の言うことを正確に把握し、事実確認を行う

クレームを一通り受けたら、顧客の言った内容に間違いがないか確認します。

対策3の録音やメモでお互いで確認して、ブレないように解決していきましょう。

対策6. その場で回答をしない

顧客が金銭や土下座などを要求してきた場合は、「ご意見として承りました」「会社に伝えお返事致します」と伝えるだけにとどめ明快な回答は避けましょう。

要求を飲んでしまうと、さらなる要求にエスカレートする可能性があります。

クレームを受けても個人で上手く対応すればカスタマーハラスメントに発展させないで済むケースが多くあります。

これは応対者だけではなく顧客にとってもストレスが溜まらずいい結果に繋がることがあり、逆に言えば対応を間違うと、応対者がカスタマーハラスメントを誘発してしまう可能性もあるので、顧客対応には充分に気を付けましょう。

カスタマーハラスメントから従業員を守るために企業がすべき行動は?

カスタマーハラスメントの中には最前線の従業員だけでは対応しきれないものも多くあります。

また従業員がスムーズに対応できるためにも、企業側がカスタマーハラスメントに対してあらかじめ対策を講じておくことが重要です。

従業員を守るため企業がすべき行動

従業員個人で対応できないカスタマーハラスメントに企業は備えなければなりません。

行動1. 悪質クレームの定義と判断基準を明確にする

悪質なクレーマーは企業が嫌がるポイントを熟知しており、その企業独自の経験値だけで充分に対応できない場合が多くあります。

そのため専門業者の力を借りるなどして悪質クレームの定義と判断基準を明確にし、カスタマーハラスメントに対応できる態勢を整えなければなりません。

行動2. 事前にカスタマーハラスメントに関する啓蒙・教育を行う

カスタマーハラスメントを受けても従業員が取り乱さないよう、あらかじめ対応方法を研修しておくことが必要です。

そうすることで対処方法が判り、ロールプレイング(擬似的に体験して学習すること)で経験を積めば冷静な対応ができるようになります。

行動3. 毅然とした態度を示す

カスタマーハラスメントは不当請求以外の何ものでもありません。

そのため経営者は不当要求には応じないと明快な意志を示し、各部署に徹底させる必要があります。

また従業員がカスタマーハラスメントにより肉体的、あるいは精神的に傷付けられた場合は、警察への通報も辞さないという断固とした姿勢を取らなければなりません。

カスタマーハラスメントは個々の企業のノウハウだけでは手に余る事が多いのが現状です。

専門家に依頼するのは負担ですが、従業員を守るためにも投資は必要と考えなければなりません。

カスタマーハラスメントで悩んだ時の相談先は?

カスタマーハラスメントに遭遇しても自身で対応できれば問題はないのですが、手に余る場合も往々にしてあります。

そのような時はどこに相談すればいいのかについて確認していきましょう。

カスタマーハラスメントの相談先

企業内にクレーム対応の相談窓口があるなら、まずそこに相談をします。企業が相談を受け付ける部署を設けていない場合は上司に相談をしてください。

そして明らかに犯罪となる場合は警察、被害を被った場合は弁護士などに相談しなければなりません。

法に触れる事をされたにも関わらず企業で対応してくれない場合は、社外に相談することも大切です。何より自分の身を守ることを考えましょう。

カスタマーハラスメントで疲れたら転職を考えるのもあり

カスタマーハラスメントは個人で対応しきれるものばかりではありません。

そのため企業全体で取り組む必要があります。

しかし、勤め先がカスタマーハラスメント対策に消極的で改善をしてくれない場合や対応してくれていても数が多く、身体や精神が持たないという場合は転職を考えましょう。

がんばり過ぎて自分を追い詰めしまうより、自身の命を大切にしてください。

転職は経済面でも不安ですが、職業訓練など公的支援も活用すれば現状より良い未来を見いだせるはずです。

カスタマーハラスメントから自分を守ろう!

今回はカスタマーハラスメントについてと対処方法について確認してきました。

ある程度は個人で身に付けることが可能な対処法がありますが、よりディープな内容に対応するためにも企業はしっかりと投資し、従業員を守るための対策を講じなければなりません。

もし、あなたを守ってくれないような職場の場合は、転職を考える必要があります。何より大切なのは自分の命だということを忘れないでください。