遅刻多い社員は何回でクビ? 解雇の可能性と会社側からの適正な処分について社会人として遅刻は厳禁などが当たり前です。

しかし、本記事を読んでいる方の中には朝が弱くて頻繁に遅刻を繰り返す方や、早退や無断欠勤した経験がある方もいるのではないでしょうか。

そこで気になるのは、「遅刻などが多いと解雇される可能性があるのか?」という点です。

また、解雇される可能性がある場合、何回の遅刻でアウトとなるのかも気になるところでしょう。

そこで今回は、遅刻によって解雇される可能性があるのかについて解説します。会社側の適正な処分についてもお伝えするので、ぜひ参考にしてみてください。

遅刻が多いなど勤怠不良への考え方

遅刻が多いなど勤怠不良への考え方遅刻が多い社員のことを、会社では「勤怠不良」と呼んでいます。

勤怠不良とは、遅刻をはじめ早退や私用外出・無断欠勤などを総称する用語です。

そもそも労働契約関係では、所定労働日に対して所定労働時間に過不足なく労務を提供することを「労働者の基本的な義務」としています。

つまり、遅刻や早退が多かったり無断欠勤が頻発していたりすると、所定労働時間に満たない労務提供しかしていないため、基本的義務を怠る重大な債務不履行となるのです。

もちろん、遅刻の頻度が少なかったり、電車の遅延など正当な理由があったりすれば問題にはなりません。

ところが、あまりにも度が過ぎる場合は、解雇の対象となってもおかしくありません。企業の秩序を乱すほどの影響がある場合は、懲戒処分の対象になる恐れもあるのです。

遅刻が多いと解雇されてしまうのか

遅刻が多いと解雇されてしまうのか結論を言ってしまえば、遅刻が多いだけで解雇される可能性はありません。

遅刻の理由によっては軽い処分で済むケースが大半なのです。

遅刻での解雇は不当と判断された高知放送事件

昭和52年に、高知放送のアナウンサーが2度も遅刻して、「生放送に穴を開けた」と解雇されました。

しかし、その後アナウンサー側が「解雇は不当」と裁判を起こし最高裁まで行ったのです。その結果、最高裁は「解雇という重い処分を下すことは権利の濫用であり無効」と判断したのです(*)。

具体的な理由は以下のようなものでした。

  1. 本件は寝過ごしという過失により発生したもので、悪意・故意によるものではない
  2. アナウンサーを起こす担当者も寝過ごしていた
  3. 寝過ごしによる放送の空白時間はさほど長時間とはいえない
  4. これまで放送事故歴はなく平素の勤務成績も別段悪くない
  5. 本人が謝罪の意を表している
  6. 寝過ごした担当者は譴責処分とされたにすぎない

このように、ただの遅刻ではなく「生放送が中止になる」という重大な事態に発展した遅刻でも、解雇は不当だと判断されました。

一般の社会人が、数回の遅刻だけで解雇されるというケースはほとんどないと考えて良いでしょう。

ただし、反対に遅刻で解雇されたという事例もあります。

*参考:裁判所「裁判例検索|高知放送事件:最高裁昭和52年1月31日」

遅刻による解雇が認められた東京海上火災保険(普通解雇)事件

平成12年7月に東京海上火災保険で、通勤途上の負傷や私傷病等を理由とした長期欠勤(4か月間、5か月間、1年間、6か月間)をしている方がいました。欠勤はかなり多く、約5年5か月のうち約2年4か月が欠勤だったのです。

また、最後の長期欠勤の前2年間は、「出勤した日のうち約4割が遅刻」と常習的に遅刻を繰り返していました。

ついに、他の社員からも不満が出る事態にまで発展して、裁判にまで発展した事件がありました。

こちらの「東京海上火災保険事件 H12年7月 東京地裁」では、最終的に解雇という対処が認められたのです(*)。

解雇の判決が出た理由は以下の通りとなっています。

  1. 4回の長期欠勤を含め傷病欠勤が非常に多かった
  2. また出勤しても遅刻や離席が頻発していた
  3. 勤時の勤務実績は、担当作業を指示どおりに遂行できず他の従業員が肩代わりしていた

以上のような理由から解雇となりました。判決のポイントとしては、長期かつ複数回の欠勤の事実に加えて、勤務実績も劣悪だという事実が大部分を占めていて、遅刻が多いという点だけでは決してありません。

実際に事件では、数回の遅刻という軽いものではなく、何年にも渡り遅刻や欠勤を繰り返しています。そのため、一言で「遅刻で解雇された事件」とは言えないのが実情です。

一般的な遅刻であれば、基本的には遅刻で解雇されるケースはありません。しかし、状況や対応次第では解雇される可能性があるという事実は理解しておく必要があります。

*参考:全情報「労働基準判例検索|東京海上火災保険(普通解雇)事件」

遅刻が多い社員への一般的な対応例

遅刻が多い社員への一般的な対応例ここでは、遅刻が多い社員への会社側の一般的な対応例について解説します。基本的には、いきなり解雇するのではなく、何かしらのアクションを起こすのが一般的なようです。

対処例1.勤怠管理の徹底

1つ目の対処例は勤怠管理の徹底です。

遅刻を繰り返す社員がいる場合、会社側は勤怠状況をしっかりと把握する必要があります。誰が何時に出社しているのか正確に知らなければ、遅刻を注意することすらできないからです。

労務管理を徹底すれば、遅刻を繰り返す社員を正確に割り出して、その原因究明や対処に取り組めます。

対処例2.遅刻の原因の確認

2つ目の対処例は遅刻の原因の確認です。

そもそも、何の理由もなく遅刻するという方は少ないでしょう。遅刻するだけの原因が必ずあるはずなので、会社側はまず原因の究明から始めます。

例えば、上司ならのパワハラを受けていて何人も離職するような環境なら、「会社に行きたくない」という気持ちが強まって遅刻をしている可能性があります。

もしくは、本人も気が付かないうちに睡眠障害やうつ病などの病気を発症していて、遅刻を繰り返す可能性だってあるのです。

これらの理由を把握せず「いきなり解雇」という判断を下す会社は少ないでしょう。まずば、どうして遅刻を繰り返すのか、その原因究明に乗り出すはずです。

もし、あなたが遅刻を繰り返す場合は、会社の指示に従って原因究明に協力しましょう。自分でも気が付かない原因が見つかるかもしれません。

対処例3.注意・指導

3つ目の対処例は注意・指導です。

遅刻を繰り返す社員がいる場合、まずは直属の上司などが注意・指導するのが一般的でしょう。

社会人として時間を守ることの重要性を教えたり、時間を守らないと他の社員に迷惑がかかると理解してもらったりと、日頃から社員に対して指導して意識を変えるよう促します。

それでも変わらない場合は、次の対処法を試すといった流れです。

対処例4.配置転換や降格処分を下す

4つ目の対処例は配置転換や降格処分を下すことです。

注意や指導をしたにもかかわらず意識が変わらないようなら、就業規則に従って降格を命じるか、もしくは人事権を行使して配置転換や降格処分となります。

あくまでも注意や指導があってからの話なので、いきなり配置転換や降格処分となるケースはほぼないでしょう。

対処例5.解雇にならない懲戒処分

5つ目の対処例は解雇にならない懲戒処分です。

再三注意・指導しても改善しない場合は、就業規則の懲戒規定に則った処分か、解雇にならない懲戒処分を行います。初めての懲戒処分なら戒告やけん責、それでも改善しない場合は減給や降格などの対処となるでしょう。

ちなみに懲戒処分には7種類あり、処分の重さが違ってきます。

戒告

口頭での注意

譴責

始末書の提出を求める処分

減給

支給される給与の一部を差し引く処分

出勤停止

一定期間の出金を禁止する処分

降格

役職・職位・職能資格を引き下げる処分

諭旨解雇

企業と本人が話し合い、合意の下で行う解雇処分

懲戒解雇

企業側が一方的に解雇処分を進める

一番上の「戒告」が最も処分が軽く、一番下の「懲戒解雇」が最も重い処分です。

対処例6.退職勧奨

6つ目の対処例は退職勧奨です。

再三の注意・指導でも一向に改善がない場合は、退職勧奨を行うことがあります。社員と会社の双方で合意すれば、退職合意書を交わして退職が成立です。

そして、どうしても折り合いがつかない場合は解雇も検討されます。

対処例7.本格的な解雇の検討

7つ目の対処例は本格的な解雇の検討です。

一般的には、普通解雇または懲戒解雇のいずれかが適用されます。通常、遅刻が原因なら普通解雇となるケースが多くなっています。

このように、社員に問題があっても段階を踏まずいきなり解雇するケースはほとんどありません。

もしも、段階的な処分もなしに解雇されたとしたら、不当な解雇になり裁判で解雇が認められないケースが多くなっているのです。

遅刻を繰り返す社員を出さないために企業が取り組む対策

遅刻を繰り返す社員を出さないために企業が取り組む対策遅刻を繰り返すような勤怠不良の社員を出さないために、企業が取り組む対策についてご紹介します。

就業規則の整備

1つ目の対策は就業規則の整備です。

特に欠勤に関しては就業規則にて明確なルールを定める必要があります。

例えば、理由もなく遅刻や欠勤を繰り返すことを懲戒事由とするなどのルールが考えられます。

もちろん、就業規則に沿ったルール作りは、内容に合理性がなければなりません。

また、就業規則を整備しても、その事実が従業員に伝わらなければ意味がないので、明確なルール作りをした後は、働く社員にルールを広めるのも企業の役割です。

ストレスチェックとカウンセリングの実施

2つ目の対策はストレスチェックとカウンセリングの実施です。

大規模な企業によっては、社員の定期的なストレスチェックを実施しています。客観的にストレスの度合いを測り、その状態によってはカウンセリングの実施なども行っているのです。

社員のストレスや精神的な悩みを早期に発見して、重大な事態にならないよう対処するのも企業の大切な役割なのです。

誰でも遅刻する可能性があるが、社会人として責任ある出退勤を心がけよう

誰でも遅刻する可能性があるが、社会人として責任ある出退勤を心がけよう誰でも体調不良や疲れなどで遅刻するときはあるでしょう。しかし、度重なる遅刻となると勤怠不良として扱われてしまいます。

口頭で注意や指導があるうちに、改善するのが望ましいでしょう。そうでなければ、最悪の場合は解雇になってしまいます。

もちろん、解雇は労働者にとって生活の基盤を失う事態となるため、一般的にそう簡単には認められないでしょう。とはいっても、遅刻を繰り返すのは社会人としてタブーなのも事実です。できる限り遅刻せず、労働契約に則った出退勤を心掛けてください

万一、何らかの理由で遅刻が重なったとき、すぐに解雇されるようなら、不当な解雇に該当します。そのときは弁護士に相談してみましょう。